憎悪との対峙
37 何処から見るのか
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ハートレスはバックミラーを確認しながら、ガヤルドを走らせていた。
追手が来る緊張感とメリーを速く安全な場所へ連れて行かねばならぬ焦りで、いつもの冷静な態度は微塵も感じられない。
今までも顔色1つ変えずに冷静を装っていたことは何度もあった。
しかし今はそんな余裕すらも無かった。
ハンドルを握る手がプルプルと震え、アクセルを踏み込む足がまるで自分のものでないような感覚を覚えていた。
「...頑張って...もう少しだから」
メリーにいつもなら絶対に言わないような言葉をかけた。
焦りながらも不思議と体が覚えた運転技術が自然と事故1つ起こさずに目的地へとガヤルドを走らせる。
極力、信号が無い道を選び、デンサンシティのビル街を駆け抜ける。
ちょうど新宿の高層ビル街と秋葉原の中央通り、更に渋谷の玉川通りを思わせる要素を含んだ魔都。
昔から発展を続けていはいたが、この10年の間の技術革新が更にその進化を加速させた反面、それによるネット犯罪の増加率がニホンでは不動の1位に輝いた。
ネットには人間の性とも言うべき悪を増幅する力がある。
誰かが軽い気持ちで誰かを罵るコメントを送信し、それを面白がって誰かが広める、そしてそれを見た多くの人々が罵ることは罵られるだけの理由がある、皆の共通認識だと思い込み、その増幅された悪意はネットを飛び出し、現実の世界で猛威を奮う。
技術が発展すれば、それに伴って人間を堕落させる。
ハートレスは人間の根底にあるのは悪だと考える、一種の性悪説の立場の人間だった。
それは自分もそうだから、そして今まで見てきた人間の多くがそうだったから。
この街の多くの人間が性善説と性悪説という単語を知らずとも、頭の中では理解していることだった。
しかしハートレスの立場の根拠はそれだけではなかった。
「っ...」
そんな思考を振り切るように、ハンドルを切って曲がり、コトブキ町へと入る。
そしてセーフハウスの門をくぐり、車庫へと飛び込んだ。
ガヤルドを飛び降り、壁のスイッチを押す。
すると車庫の床はゆっくりとリフトダウンし、地下ガレージへと降りてくる。
「アイリス!!測定装置は!?」
「準備出来てるわ!!」
そこには無事を祈り、手を合わせていたアイリスがいた。
ハートレスはすぐさま助手席のドアを自分でも信じられないくらい乱暴に開き、シートベルトを外し、メリーを抱えてアイリスの方へと走った。
「無事でよかった...」
「...時間通りに来なかった時は肝を冷やしたわよ。多少のズレはあってもほぼ計画通り、正直なところ驚いたわ」
メリーの腕と頭に測定器を取り付けながら、アイリスと目線を合わせた。
作戦は理に適っていたが、成功する確率は限りなく低かったが、それを成功させることが出来た。
奇跡
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