第16話 最後の実験を
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あいつが組織を裏切って、自分を見逃すのに期待するって事か?」
それこそ、考えにくい事じゃないかと小倉は思った。高田が、クラスメートだったという程度の情に流されて、やれと言われてる事をすっぽかすような人間には到底見えない。高田に、優しさが無いとは言わない。昨晩から今朝まで、自分を包み込んでくれたその態度は優しすぎるくらい優しく、温かかった。しかし……それも、彼女の組織の利益と、自分の保護が相反していなかったからこその態度のように小倉は思う。あの無表情で、実直な高田が、自分の属する組織を裏切るとは考えにくく、それを期待するのは失礼にさえ思える。しかし、田中は繰り返す。
《いや、大丈夫だ。絶対に大丈夫。俺は紫穂を信じている。だから、謙之介も紫穂を信じるんだ。信じて、2人で俺に会いに来て欲しい。……最終的な選択は、謙之介に任せるけどね。これが、最後の愛の実験さ》
「……言いたい事は分かった。で、お前は俺を呼んで、一体何をさせるつもりなんだ?それをまだ聞いてないぞ」
電話の向こうで、田中がフフッと、悪戯っぽく笑うのが聞こえた。
《それはまだ、秘密だよ……一つ言える事は、今回の実験が終わった時、謙之介は今まで通り、無事でいるって事さ。それは保証するよ。……これを信じるかどうかも、君次第だけどね》
「……ああ。よく考えて、決める」
田中からの電話が切れた。部屋には、小倉だけが残される。それと同時に、部屋のドアがガチャ、と音を立てて、高田が帰ってくる。買い物袋をいくつか引っさげて、しかしそれらを重そうに扱う事もなく、軽々と持っていた。一体その体のどこにそんな力があるのか、実に不思議である。
「ただいま」
「……お帰り」
小倉は、高田の顔をジッと見た。買い物袋をテーブルに置いた高田は、不思議そうに小首を傾げながら、小倉を見返す。
「どうしたの?そんなに見て」
「……いや、何でもない」
まさか、高田が信用に足るのかどうか、顔をよく見て確かめようとしていた、だなんて言えない。手段の妥当性としても怪しく、そうする以外に方法のない自分が情けないし、何でそんな事をする必要があるのかも簡単には言えない。田中の現在地の、絶対的なヒントを自分が持っていて、それを伝えようかどうか迷ってる、なんて事は。気まずそうに目を逸らした小倉に対し、呆れたように息をつきながら、高田は買い物袋の中身の整理に取りかかった。
「……やっぱり、田中くんから電話がかかってきたわね」
唐突に言った高田に、小倉はぎょっとした。何故、さっきまで田中と電話していた事を高田が知ってるんだ?部屋には居なかったはずなのに。
「小倉くんを一人にしたら、必ずかかってくるとは思ってたけど、さすがは田中くんね。あと少
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