第16話 最後の実験を
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り立てた文句は、案外田中の本音だったのかもしれない。恐ろしい奴だ。そして、何度も思ってきた事だが、人使いが荒い……
そこで小倉は、今まであまり気にしてこなかった一つの事実に気づいた。
「……おい、ちょっと待て。さっきから話を聞いてりゃ、俺とお前の繋がりがバレてるじゃないか。でなきゃ、高田が俺の動向なんて気にかける事も無いし、助けに来る事もありえないんだから」
《うん、そうだねぇ。警察と公安の目は誤魔化せても、彼らの目は誤魔化せなかったみたいだね。さすがは、日本の夜の眼だ。鋭いよ》
あっさりと言ってくれた田中に、小倉は血の気がサッと引いた。そうだ。高田があんまり優しくしてくれるもんだから、意識の中で見過ごされていたけど、高田もまた警察や公安のように田中を追っている人間達の一人なのだ。そして、自分が田中と関係があるという事がバレている。これから、どういった目に遭わされるか、分かったもんじゃないではないか。目的の為に平気で人を殺すような、そんな側面は、躊躇いなくヤクザを撃ち殺した高田の姿が示している。抱きしめられ、温もりを与えられて安心していたが、実は自分は相変わらず窮地に追い込まれているのではないか……小倉は戦慄した。
《……でもこの状況は、そこまで悪い状況じゃないよ。今はもう、警察も公安もヤクザも俺を追ってない。関係が実にシンプルになったんだ。逃げる俺、追う紫穂、その間の謙之介。追う側が紫穂だという事に、十分活路を見出せる。むしろ今までで一番良い状況だ》
田中はどうやら、小倉ほどには危機感を覚えていないようである。それどころか、今までで一番良い状況、と言い切った。小倉にはその理屈はさっぱり分からないが、黙って田中の続きを聞く。
《愛の実験の四回目を始めよう。そして、実験はこれが最後だ。今から謙之介の家のパソコンに、俺からのホットラインを引く。そして紫穂に、その存在を教えるんだ》
「は?お前、それじゃあ……」
《俺の居場所を、謙之介と、紫穂に伝えるという事だ。そして、その場所に出向いてきて欲しい。謙之介に、どうしても最後に一度、会わないといけない。そして、やってもらわなくちゃいけない事があるんだ》
小倉は、田中の言ってる事の意味が分からなかった。いや、分かった試しの方が少ないのだが、ここで自分の居場所を晒して、一体どうするというんだ?しかも、自分を追ってる立場の人間にまでそれをバラすなんて、正気の沙汰とは思えない。
「……お前、それは考え直した方が良いと思うぞ。いまさら会いに来させて、それでどうなるって言うんだ?これまで何とか逃げ延びて、生き延びてきたんだろ?高田に居場所教えるって事は、それ全部パーになるかもしれないんだぞ?」
《大丈夫。俺は紫穂を信じるよ》
「高田を信じるって……
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