Memo1 ヴァイオレット・ハニー
「引きずり出してあげる」
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。イリスが散じていた触手を集め直して、さらに海瀑幻魔をがんじがらめにした。
「次元刀ッ!」
「ミュゼよ!!」
すでにミュゼが指さす天には炎の魔法陣が編まれていた。
「レイジングサン!!」
ミュゼの合図で陣の真下からすり鉢状に炎が広がった。イリスの触手に拘束された海瀑幻魔は成す術なく、術の炎によって焼け落ちていく。
ルドガーは幻魔が完全に燃え尽きる前に、骸殻に変身して走り、幻魔に槍を突き立てた。
砕け散る黒い歯車と、舞い降りる白金の歯車球体――カナンの道標。
急いで駆け戻り、「道標」をエルの手に握らせた。
ガラスが砕ける音。そして、世界が一つ崩れて落ちた。
正史世界に戻った手応え。見渡せば、分史と同じくキジル海瀑にいた。
(ユリウスは――いない。ちゃんと戻れたかな。……いや、ユリウスが半端なく強いのは俺が一番知ってるだろ。ユリウスなら大丈夫だ、絶対)
自らに言い聞かせ、一人密かに肯いた。
イリスはすでに人間態に戻っていた。左半身の服の布が点々と焼けているのは、海瀑幻魔を捕えた触手に当たる部位がそこだからだと予想がついた。
「イリス、腕。エリーゼに治してもらうか?」
「いいわ。自然回復を待つことにする。彼女はイリスをキラっているしね」
すると、ぽつりと、他意がない声がミュゼから上がった。
「……風の噂に聞いてはいたけど、本当におぞましい体をしてるのね、貴女」
「刀風情に言われたくない」
一触即発。まさにその時、抱えていたエルが身じろぎ、目を開けた。
イリスから敵意が消えた。イリスは身を翻しすぐさまエルの傍らに膝を突いた。
「エル、大丈夫? どこも痛くない? 平気?」
「うん…だいじょーぶ…」
そう答えるものの、エルの目は焦点を結んでいない。
ふとエルが腕を上げる。ぺた、と掌がルドガーの頬に触れた。
「――ルドガーは、へいき?」
「ああ。俺は何ともないよ」
「ウソ。うで、まっかだよ」
え、とルドガーはつい自分の両腕を見下ろした。何の傷もない。イリスとミュゼのおかげでスピード決着だったから、傷を負う暇もなかった。
念のためエリーゼにも看てもらったが、彼女も「ケガしてませんよ」と答えた。
「……平気だよ。後で手当てしてもらうから。もう少し休め」
「ん…るどがーが、そーゆーなら…」
こてん。エルは今度、安らかな顔で眠りに戻って行った。
無垢な寝顔を見て、ルドガーはエリーゼと顔を見合わせて苦笑した。
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