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レンズ越しのセイレーン
Ready
Ready4-2 ペイト/グッバイ
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いたユースティアを力いっぱい抱きしめた。

 ユースティアももぞもぞと動いて、とにかく1cm?でも多く母とくっついていられる位置を探している。
 何て愛らしく、愛おしい生き物だろう。

「それじゃユースティア、かーさま、行くね。とーさまの言うことちゃんと聞いて、いい子で暮らすのよ」
「かーさまは?」
「麓の街に戻るだけだから。大丈夫。時々会いに来るから、ユースティアも会いにいらっしゃい。いつかあなたの伯母さん、紹介してあげる」
「ユースティアにおばちゃまがいるの?」
「そうよ。かーさまのお姉ちゃん。他にも昔の友達とか。ユースティアを楽しませてくれる人ならいっぱい心当たりあるんだから。だから、しばらくの間、バイバイね」
「わかった。ユースティアはかーさまとバイバイして、とーさまの言うこと聞いていい子にする」
「えらいわね。いい子。大好きよ、あたしたちのユースティア」

 最後にもう一度だけ。ノヴァは愛する人との愛娘を強く抱いた。

(さよなら。私の愛する人たち)

 …………

 ……

 …

 街に戻ったノヴァは、ヴェルの家に転がり込んだ。

 片割れはポーズでも怒るだろうと予想したのに、何も言わずにノヴァとの同居を受け入れたものだから、ノヴァのほうがぽかんとした。

 ――それから10年経った今もノヴァが非汚染地区に住めているのは、ヴェルの恩恵だ。ヴェルがクランスピア社で高い地位にあるから、唯一の家族のノヴァも非汚染区居住の優先権を得られる。


 ある日のことだった。ノヴァはマーケットで買った安全な食材を詰めた袋を抱え、家路を急いでいた。

(早く帰って夕飯の支度しないと、ヴェルの仕事終わっちゃうよ)


 そんな何の変哲もない一日の終わり。
 天地がひび割れて、崩れ落ちた。


(――ああ)

 ノヴァはその場に立ち尽くした。力が抜けた腕から袋が落ちて、いずこともなく消えていった。

 無くなった天を仰ぎ、涙を一粒だけ落とした。


 ――夫と娘がついに遂げたのだ。


 刹那のエアポケットの中で、ノヴァはあの日のように思いきり娘を抱き締めたいと願った。
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