俺馴? バレンタイン特別編
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
届く。さざめの手に握られているのは小さな花束だった。赤とピンクの混ざった色彩の花弁が目の前に揺れる。
「フラワーバレンタイン、という奴だ。ドイツじゃバラが主流らしいけどな」
「これ……私に?」
「まぁ、昨日に偶然買ってな。なんだ、いらないんならうちの家で活けるが?」
とくん、と胸の鼓動が高鳴った。
「あ、あうあうぁ……」
不意打ち的な花束のプレゼント。予想だにしなかった事態に頭が熱暴走で煙を噴きそうになった。本当に――本当にこの男は、どうしてこんな時ばかり人にサプライズをするのだろう。チョコを待っているのではなくて、こちらに花を渡すタイミングを待っていたなんて。
緊張で震える片手を伸ばし花束を受け取ると、さざめもチョコの箱を受け取った。プレゼントを交換する形になる。
花束のプレゼントは、そう気軽に行われることはない。まして男女間では、花の扱いに困るのもあってか今ではまず見ない。だが、奇しくも花束のプレゼントは彼女の故郷では未だに現役のプレゼントだった。
「あ、あ、あ、あ、あのあのあの……」
嬉しいのに、本当に嬉しいのに、あまりにも突然で上手く言葉が出てこない。
こんなにも胸がときめいているのに、こんなに暖かな気持ちで溢れているのに。喜ばせる筈がいつのまにやら喜ばされている。抱きしめたいくらいに喜びを表現したいのに、さざめから近寄られるといつもこんな風になる気がする。
慌てる私を見てプッと笑いを噴きだしたさざめは、受け取ったチョコを鞄に入れた。
「チョコ、ありがとうな。家に帰ってゆっくり食べることにする」
「さ……さざめくん!お花、ああありがとっ!とっても綺麗でで可愛くてステキで……えっと、えっと、とにかくありがとう!大切にしますっ!」
「学校で渡しても扱いに困るだろうから家の前で渡したんだ。おばさんに預けて、さっさと学校に来いよ?」
「うんっ!!」
いりこの元気凛々な声が、住宅地に響き渡った。
花束の中には一枚のカードが入っていた。
カードによると、この花は「アルストロメリア」と呼ばれる花。
花言葉は「異国情緒的」、「未来への憧れ」……そして、「持続」。
その小さな花束に込められた思いは――「二人の関係が少しでも長く続きますように」というさざめの密かな願望だったのかもしれない。
なお、その日の晩にいりこは貰った花を敢えて神秘術で保存加工せずに部屋に飾り、眠るまでの間その花を見つめては嬉しそうに笑っていたそうだ。その日は花の甘い香りに包まれて、よく眠ることが出来たという。
……逆にいりこ手製の興奮物質入りチョコを食べることになったさざめは、いりこに対して湧き上がる悶々とした感情の所為でいつまでも寝付けなくなったそうだが。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ