第八章
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第八章
「あの顔がいいのよ」
「何かおのろけね」
「完全にね」
周りはそんな彼女に呆れながらも優しい笑みを送る。
「けれど。確かにね」
「ええ、凄い精悍っていうかね」
「強い顔よね」
「勝負に向かう顔ね」
「既に闘ってるっていうか」
そうした顔になっているのであった。まさにである。試合に向かうその中でも完全に闘う顔になっている。獲物を狙う狼の顔になっていた。
「その顔を見てると」
「何ていうかね」
「勝てそうね」
それを皆で言う。
「オーラさえ感じるし」
「あの大阪の馬鹿一家のあれなんてただの作り物だしね」
「そうそう」
我が国の恥については彼女達もよくわかっていた。
「猿が喚いてるだけだし」
「頭も人格も最低だしね」
「ただの喧嘩じゃない、お山の猿よ」
世の中そうした存在が持て囃されたりもする。愚劣なマスコミが持ち上げているからである。カリスマの家系でも何でもない、劣性の家系と言うべきであろう。
「馬鹿って遺伝するの?」
「馬鹿な親が教育するからそうなるのよ」
「そうなるのね、やっぱり」
「それにひきかえ」
リングの裕典を見るとであった。全く違っていた。
強い目の光を放ってである。相手を見据えていた。その背にある赤コーナーが彼のその燃え盛る心をそのまま表わしていた。
リングが鳴った。それと共に激しい闘いがはじまった。
両者共互角であった。裕典も強いがチャンピオンも確かに強い。二人の攻防はかなりのものであった。
裕典はチャンピオンのストレートをかわしフックを浴びせる。しかしそのフックはチャンピオンの身体をすり抜けてしまったのだ。何とだ。
「えっ!?」
「今のって」
「何っ!?」
「フットワークよ」
杏奈は試合を見ながら言った。
「チャンピオンの動きがそれだけ速いのよ」
「それですり抜けたの、パンチを」
「何て素早い動き」
「そこまで凄いなんて」
「けれどよ」
しかしであった。ここで杏奈は確かな顔で言うのであった。裕典を見ながらだ。
「裕典は絶対に勝つわ」
「あんなフットワークを見せている相手に?」
「それでも勝てるの?」
「あんなの見たことないわよ」
「勝てるわ、見て」
裕典を見るという。するとである。
チャンピオンのパンチをだ。彼もすり抜けてみせたのである。
「うわ、彼も」
「フットワークってこと?」
「それで」
「そうよ、伊達に世界チャンピオンじゃないわよ」
杏奈は試合を真剣そのものの面持ちで見ながら周りに話す。
「あれ位はね」
「できるっていうの」
「すご・・・・・・」
「パンチだけじゃないの」
「そして」
杏奈が今言うとであった。裕典のフックがチャンピオンを打った。顔にまともに当たった。
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