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【銀桜】4.スタンド温泉篇
第1話「旅行の荷物はお手軽に」
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気に銀時たちの荷物で埋まった。
「アレ、なんかホントに前が見えなくなった。重すぎて前が見えないんだけど」
 困り果てる長谷川を置いて、銀時たちは目的地の旅館を探し始めた。
 周囲に人はおらず、頼りになるのはお登勢から渡された簡易な地図だけ。少々不安だったが、その建物は案外すぐ見つかった。
「………」
 無数の漆黒のカラスが空を飛び交い、渇いた鳴き声が響き渡る。
 瓦や柱は雪で半分押し潰され、今にも全壊しそうな廃屋が山の中に建っていた。
 『仙望郷』と看板があるのでここで間違いない。ただ年月の経過のせいか、字はおどろおどろしく血文字のように滲み、湯につかる老人は全身から血を噴き出しているようにも見える。とてもグロテスクな看板である。
「マジかい。このボロ旅館に泊まんの俺たち?つーかここホントに営業してんの?人の気配がねーぞ」
「かつては営業してたんだろ、立派な旅館として。湯につかったまま極楽へ行けるほどにな」
「おいおい冗談じゃねーぞ。それってこの世の終着駅じゃねぇか。極楽っつーより地獄に行きそうだぞ、この旅館」
 妹の皮肉めいた発言を聞いてる間に、神楽とお妙は旅館の人間を探しに行った。
 ここで愚痴をこぼしているよりはマシだが、正直ここに人がいるとは思えない。
 仮にいたとしてもそれは――
「オイオイオイ勘弁してくれよ。こんなもん完全に妖怪の住まいじゃねーか。気味悪ィって。なんでこんなたくさんカラス飛んでんだ」
 実をいうと銀時はここに来るまで胸騒ぎを感じていた。
 一ヶ月分でも滞納すれば「家賃払え」と毎日押しかけ、他に不満なことがあればネチネチとケチをつけまくるあのお登勢が、タダ同然の温泉旅館を紹介した。妙に思っていたが、その旅館は見ての通りオンボロ。とても人が寝泊まりできると思えない。
 嫌な予感が当たったか、と不気味な雰囲気に包まれた温泉旅館を前に銀時は舌打ちした。
「おーい酷いよ。オジサン体力ないんだからさぁ」
 銀時たちの荷物を背負った長谷川がようやく到着した。
「帰りも頼んだぞ」
「オジサンの話聞いてる?」
 頷いて即答する双葉。敬いも遠慮も全くないその様に、長谷川はまたも視界がぼやけてくる。
「あぁ長谷川さん。アンタ来ない方がよかったよ」
「何言ってんだ。ところで旅館どこ?はやくこの薄情な重みから逃れたいんだけど」
「僕たちもこの現実から逃れたいです」
「現実逃避したって無駄さ。ありゃ余計心が折れるだけだ」
 長谷川の頭の中にモンハンで『M』が抹消された出来事が蘇る。
 あまり思い出したくないが、傷が深ければ深いほど忘れられないものはない。
 一人悲しみに暮れる長谷川。銀時たちもその事を察したが、今はこの山に漂う淀んだ空気の方が気になって仕方がなかった。
「変だな。廃墟しかなくね。……
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