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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第16話 雪うさぎ
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振り返れば憤りにも似た衝動だったのかもしれない。
 生きたくても生きられなかった命があるのに、死ぬことに安堵する命があることが我慢ならなかった。

 そして、医療関係者が使える人工心肺がないと騒いでいる中、自分の心臓を使うことを咄嗟に思いつきその中の一人を捕まえ、それを申し出て彼の命をつないだ。


 なのに、自分は今彼の死を前提に置いた立場に甘んじている―――こんなつもりなど微塵も無かったというのに。

「悔しいな……こんなのじゃ貴女に笑われちゃうかな……山城さん――――」

 彼女ならどうしただろう、彼女ならこの境遇にどう立ち向かっただろう。

「……ダメだ。彼女に何時までも甘えてちゃ。」

 あの人の様に孤高で、凛として在り方に憧れてた。
 彼女の様に強く在りたかった――でも、これは篁唯依の問題だ。

 彼女はもういない、その生き方を模倣しても意味がない。
 元より、唯依の知る彼女の生き方にこういう状況に対処するパターンは存在しない。


「ああ……そっか私、山城さんに甘えてたんだ。」

 自分で口にして気が付いてしまった。
 憧れたから、彼女の様に髪を伸ばし態度も真似てみた―――何時の日か、自分が末期の祈りさえも叶えてやれなかった自分が胸を張って彼女を名前で呼べれる日が来ると。

 そんな日が、もう来るわけも無いと知っていたのに。
 自分は彼女の生き方を真似ることで罪の意識から自分の弱さから逃げたかっただけなのだと―――

「私は―――どうすれば……。」

 脳裏に浮かぶ人たちは何も答えてはくれなかった――――





 翌日―――

 忠亮の屋敷へと赴く唯依。考えは一向に纏まっていない。
 何をすればいいのか、そもそも自分はどういう心で接していいのかさえ分からない。
 だけども、何か……何かと駆り立てられるように彼の屋敷へと足は進んでいた。

 雪が降り積もり、白銀の衣を纏っているかのような風景へと変貌した屋敷。そこで彼女は優しく自分を迎え入れてくれた山口さんに忠亮の居場所を聞く。

「あ……大尉。」

 その場所は中庭、その一面の白雪の景色の中で浮き出る青い軍装の青年。
 彼は、片膝をつき縁側の下に手を伸ばしていた。

 神道の宮司の衣装を色濃く残す斯衛の軍服はどこか幻想的で、彼の纏う静寂の気配と雪景色が妙に合って――――どこか、儚く見えた。

「ん、ああ篁か」

 雪を踏む足音に気づいたのか、振り返った忠亮が静かに唯依の名を呼んだ。

「あの、何をしているんですか?」
「ああ、せっかく雪が降ったからとつい、懐かしくなってな。」

 忠亮の傍らに近寄り、そして腰を落とすと彼が縁側の下に何を見ていたのか唯依もまた見ることとなる。

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