第二章
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第二章
「試合の時はね」
「今はのろけてる顔なのにね」
「あっ、杏奈が来たわよ」
今はナースの服ではなかった。ラフなズボンと上着、そこに黒いセーターとオーバーを着ている。その彼女が着たのである。彼の前に来るとその小柄さが際立つ。
「おお、アンニーナ」
「その呼び方止めて」
困った顔で彼に告げた。
「頼むから」
「駄目なのかい?」
「駄目よ」
きっぱりと彼に返す。
「恥ずかしいから」
「じゃあ何て呼べばいいんだい?」
「普通に呼んで」
これが杏奈の返答だった。
「普通によ。頼むから」
「普通だよ」
しかし裕典はこう言って反論する。
「至って。何処がおかしいんだよ」
「アンニーナって何なのよ」
杏奈は今度は具体的に話した。言ってわかるような相手ではないことはわかっているがそれでも言うのはやはり彼氏だからである。
「そもそも」
「イタリア風の言い方だよ」
「何でイタリアなの?」
「好きだから」
それが理由だという。彼のことばではだ。
「だからだよ。わかったかい、アンニーナ」
「わかる訳ないでしょ、そんなの」
「折角トレーニングも終わってやって来たのに冷たいじゃないか」
「私だって仕事が終わったところよ。そうそう」
ここで杏奈は話を変えてきた。こう彼に問うのであった。
「トレーニングだけれどね」
「うん」
「減量順調?」
ボクサーならば切っても切れないことである。このことを問うたのである。
「そっちは」
「順調だよ。今はね」
「ええ、今は」
「試合に向けてもう張り詰めてるから」
「本当に?」
彼のその言葉を聞いても半信半疑の顔で返す。見れば能天気そうな表情である。その表情を見ればどうにも信じられないのである。
それで問うたが。相手の返答はやはり能天気なままであった。
「大丈夫だよ、ノープロブレム」
「だったらいいけれど。まあそれでね」
「うん、それで」
「食べ物にはくれぐれも気をつけてね」
このことは念を押すのだった。
「いいわね、試合前になったらね」
「炭水化物に切り替えて」
「そうよ。そうしてね」
裕典を見上げて念を押すようにして言うのだった。
「身体の動きをよくしてね」
「勝負の為に」
「試合はスピードよ」
ナースというよりもむしろセコンドに近い言葉であった。だがかなりの説得力がある。ナースという仕事からそれをそうさせるのであろうか。
「だからね。いいわね」
「わかってるよ。それじゃあ」
「御願いね」
そう言ってであった。まずは病院を出て帰りのデートに入った。裕典はずっと杏奈にべたべたして離れない。それは傍目から見てもかなりのものだった。
「何かあのカップルって」
「男の方がべたべたしてるし」
「歳上カ
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