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SS:マッチ、炎、そして少女
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て汚いですよ。汚い汚いスラムの出身で、生きるために泥棒して町を駆け回って……」

 最低の町で最低の生活を続けて、時には得意な炎の神秘術で相手に火を放ったこともあった。
 そんな世界に必要とされない塵溜めのような世界で、いっぱいいっぱいに生きてきて。
 だから、そんな世界から拾い上げて、教育を施し、力を授けてくれたあの女神さまに少しでも恩を返したかった。

『なに、殺しなど……本当ならばしない方が良い。私など旧友と再会すれば間違いなく八つ裂きにされるほど恨みを買っているのでな。悪餓鬼程度で済ませておくのが茶目っ気だよ』
「ルーさん……」

 こんな話をする時のルーさんはいつも寂しそうな声をしていて、それでも彼は自分の往く道を今更変える気は毛頭ないと笑うのだ。
 そして陽気にこう歌う。

 我等は女神の隣人よ――
 女神の願いを聞き入れて――
 ふるえや力を、働けわが身よ――
 いずれは通る道のため、嘗てと先の隣人と――
 今は思いを違えども――
 いずれ分かればそれで良し――

 サーヤは、女神の願いの邪魔になったり何も知らないような相手は嫌いだ。だから、何れは分かり合えると歌うこの歌詞は素直に賛同できなかった。
 だってこの星の連中は、女神さまの気も知らず、何も知ろうとせずにのうのうと生を享受しているだけではないか。そんな連中と分かり合うなど――

『――何なら君が追いかけっこをした彼と駆け落ちしたってよいのだぞ〜?皆もそう言う理由ならば苦笑いして見逃してくれるだろうしな〜?』
「………は、はあ!?ななな何を急に言い出すんですかルーさんっ!?誰があんなお坊ちゃんなんかと!」
『だってなぁ。君はまだ若いんだし、歳の差10歳くらい珍しくもないだろう。それにその坊ちゃん『ブルグント』の姓を名乗ったのだろう?ブルグント家といえば……ごにょごにょごにょ』
「――ええっ!!マジですかそれっ!?」
『うん。傭兵みたいな恰好だったってことは恐らく長男の方だろうけど、別荘の一つ二つくらいは持ってる筈だよぉ〜?』

暫くサーヤが本気で悩んでいたという事実は、甘言で惑わしたルーさんと女神のみぞ知る。
 
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