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SS:マッチ、炎、そして少女
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思いを堪えながら、若い男は言葉を続ける。

「そして、疑った最後の理由。――『マッチ売りの少女』はエレミア教で使われる古い隠語だ。その意味は、『炎とともに尽きる命』……炎の凶兆を示す」
「……博識だねぇ、とっても博識!まさかこの皮肉が通じる人に会えるとは思わなかったよ!エレミア教の地方司祭ならそんな古い隠語なんて知りもしないよ?」
「生憎と、俺の家はそういうのに縁があってね」

 若い男は、それだけ言い終えると腰の剣を完全に抜き放った。
 黒を基調とした両刃の剣が、月光を反射して煌めく。
 それを見た少女は大袈裟に自分の身体を抱いてわざとらしい悲鳴を上げた。

「きゃー!ゴメンナサイゴメンナサイ!私、ある人に頼まれてやっただけなのぉ!家族とか人質に取られちゃってさ、しょうがないじゃん!?」
「よく回る舌だが、嘘がモロバレだぞ。お前の持っているその巨大なマッチ棒……『ヘファイストスの松明』だろう。過去に反女神派の異端集団と認定された『スチュアート派』が強奪したオリュンポス十二神器のうちの一つだ」
「ウッソ!そこまでバレちゃう訳!?お兄さんってば実は良家のお坊ちゃんか教会関係者でしょ!!」

 今度は流石の少女も本気で驚いたようだ。
 オリュンポス十二神器は騎士団の上層部とエレミア教会上層部のごく一部しかその存在を知らない古代兵器だ。その半数は強奪されて教壇の手元にはないが、それをこの短期間に看破するなど、その情報を持っているだけでも異常な事だ。
 ヘファイストスの松明は、その中でも炎を司る古代兵器。
 見た目は巨大なマッチ棒にしか見えないが、数十もの数列を同時遠隔操作してあの規模の爆発を起こすなど、まともな神秘術では不可能だ。故に若い男は、過去に見た資料と照らし合わせてあの武器を特定していた。
 だが、その古代兵器を肩に担いだ少女は不敵な笑みで男を見上げた。

「――で、さ。お兄さんはこの後どうするのかな?勇ましく剣なんか抜いちゃってるけど、あたしのこと斬っちゃう?」
「………………」
「考えてること当てたげようか?そうだねぇ〜……私の目的があくまでこの国への牽制だって話を思い出して、本当の神器の力はこんなものじゃないなって密かに戦慄してるでしょ!」

 十二神器は、普段は封印されている。それは、その力が余りにも強力過ぎるからというのもあるが――実際には、使い方が伝わっていないからだ。十二神器は神秘数列の媒体として以外にも、特殊な使用方法が存在する。だが、その使用法を記した書物も神器使いの一族も、過去に起きた魔物との大戦によってすべてが失われていた。
 だがこの少女は、神器の使い方を知っている。先ほど町に放火する際、彼女は神秘術には存在しない過程を使用していた。
 何故神器の使い方を知っている。
 何故それ
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