第5話 颯馬「働きたくないでござる」
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なずに済んだものだ。
「助けて……くれたのか?」
「なに、気にすることはない。困っている時は助け合うものだ」
助けてくれた相手の顔を見ようと首を傾ける。
焚火に照らされて見えたものは、年は七つか八つといった自分と同じ子供の顔だった。
男の子とも女の子とも、判別がつかない。年に似合わず落ち着いた雰囲気を身に纏い、賢そうな瞳をしていた。
俺の怪我は大したものではないらしい。それでも、あのまま捨ておかれればどうなっていたか分からない……俺は彼女(話すうちに女の子だと分かった)を命の恩人だと感じた。
彼女に尋ねられ、信じてもらえないかもしれないと思いつつ、俺は自分の身の上を語った。
天狗になるために修行をしていることを。
「なるほど……やはり天狗は本当にいるんだな。でも……天狗というのは人がなるものなのか?」
「生まれながらに天狗の者と、修行を治めて天狗になる者とがいるんだ」
例えばカラス天狗という者がいる。生まれ変わる前の俺の事であるが。あれも、そのように生まれてくる者と、カラスが修業を積んでカラス天狗となる場合がある。俺は後者に当たる。
そう説明すると『なるほど、カラスは賢いからな』と女の子は笑った。
女の子の笑顔を見て、俺は気持ちが安らぐのを感じた。
この子の事をもっと知りたいと思い、教えてほしいと頼んだ。
女の子は『あまり面白い話ではないぞ』と前置きした後で、語ってくれた。
理由は分からないが、父に疎まれて寺に預けられた――と。
「寺へ……大変だったんだな」
「いや、そうでもない。寺でそだてられたことで色々な勉強をする機会に恵まれたしな。それに、母も厚い信仰心を持っていてな……そのおかげで私も興味があったのだ」
本心からそう思っているのだろう。まだ幼いのに……そのように考えることができる賢さが凄いとも、そのように考えることができてしまうことが哀れだとも、そう思った。
「父の隠居にともなって兄が家を継いだらしいが、兄は元来病弱でな。仕事ができない日が多いらしい。それもあって、戻って力を貸してほしいと話があった。しかし、一度離れた身、もう一度戻るべきか悩んでいる」
自分は俗世に戻ってもいいのだろうか……彼女がそう迷っているのが分かった。
「霊験あらたかだというこの山の話を聞き、神のお告げを聞くことができればと登ってきたのだ」
お告げを聞きに来たといっても、この山では、山を出れば山での記憶が消されるのだ。その記憶が消える現象が霊験として広がっているのだろう。神からのお告げを貰っても、結局は記憶を消される。それに、この山には……神はいない。多分。
「そうか……ごめん……今、この山の神は――留守なんだ」
「そう……なのか」
言葉は、悲しそうな響きを持って
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