第15話 破綻
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小倉が、高田に染み付いた硝煙の香りを感じるのと同時に、部屋に耳が馬鹿になりそうな爆発音が響き、埃と煙が舞った。
まさか、手榴弾?小倉がそれを口にするよりも先に、高田に乱暴に起こされ、腑抜けた足で立たされた。
「走るわよ」
高田は短く言うと、自分より遥かに体の大きな小倉を脇に抱えるようにしてから床を蹴った。小倉は高田に引っ張られ、何とか転けずについていこうと、走る。部屋を飛び出すと、爆発で破られたドアの前に死体が幾つも積み重なっていた。それらを避ける余裕もなく、隣の高田に引きずられるように足を動かす小倉。足下に、ぐにっとした嫌な感覚がした。踏んづけた事を、申し訳ないと思う暇もなかった。時々、高田が片手に持った拳銃を撃つ。廊下から飛び出してくる構成員の頭を、高田が放った銃弾は誤りなく撃ち抜く。見えた、と思った瞬間には既に倒れている構成員達の亡骸を超えて、二人は拓州会本部のビルを脱出した。
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「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
「ここまで来たら、一安心ね」
どれだけ走ったか分からないほど、走った。路地裏の一角に足を止めた小倉は荒い息を繰り返して、酸素を吸い込み続ける。高田の走るペースは恐ろしく速く、全力疾走でやっとついていけるレベルだった。今こうして立ち止まる直前には小倉は既に限界を超えており、それこそ高田に、殆ど引きずられるようにしてやっと足を動かしていた。息ひとつ乱していない高田とは対照に、小倉は四つん這いに突っ伏した。
「おぇぇええええええ…………」
小倉は吐いた。吐くほど走らされるなんて、それこそ甲洋野球部以来である。一度吐いて落ち着いてみたら、今度は、遠くで響くパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。それを聞いた瞬間、小倉は思い出した。高田に撃ち殺されて、目を向いたまま動かなくなった死体のその目つき。自分にも染み付いた、血の匂い、硝煙の匂い。
「げほっ!ごほっ!がはぁっ!ぁぁぁあ……」
何度も何度もえづいた。吐くものが無くなっても、吐き出したくてたまらない。このほんの僅かな時間の間に、一体何人死んだのか。平和な日常というものが、どれだけ遠くなってしまったのか。体が、この不可解を拒否するのかのように、胃液を吐き出し続けた。
「大丈夫?」
高田は小倉の側に膝をついて、その背中をさすってやっていた。やっとの事で小倉のえづきが収まると、高田はその体を起こさせ、ビルの壁に背中をもたれかける形に座らせた。冬の寒い風が吹いてくる。コートも全て拓州会本部に置いてきた小倉が、びっしょりかいた汗を冷やして、奥歯をカチカチと鳴らして震え始めると、高田は小倉の隣に座り、背中に手を回し
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