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【短編集】現実だってファンタジー
R.O.M -数字喰い虫- 1/4
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るような、草むらを無数の足が這いまわるような――虫の立てるあらゆる音を想起させる、理解の出来ない音だった。
 遅れて、それが店員の口から発せられたことに気付いた美咲は愕然とした。

「……お客様?お会計、『N:/厭e#v'猷堊{』円になりますが……?」
「あ、え………は、はい!」

 その言葉に思考が停止していたが、ただ一つだけはっきりしていることがあった。
 これからあと一回でも、その音声を聞きたくないということ。
 だから、その言葉がクレープの代金を示していたことは答えた後になって思い至った。
 慌てるように財布の口を開き――財布の中には大量の芋虫がひしめき合っていた。

「あ……ああっ……!?」

 指先で得体の知れない芋虫がうねっている。その事実が、財布から虫が湧くという異常事態に対する恐怖に変貌する。腕が震え、指先がぶれる。
 これは、もしかして、財布の中のお金なのか。紙幣や貨幣なのか。
 思わず店員の方を見る。店員は、酷く狼狽した私の姿を困ったように見ている。
 この財布から溢れ出んばかりに蠢く虫たちを、まるで存在しない物のような態度で。

 私にしか見えていないのか。誰にも、これが見えていないのか。
 こんな異常を通常と認識しているなんて――そして私だけがこんな世界を見ているなんて、信じがたくて耐えられなかった。今すぐ悲鳴を上げてその場を逃げ出したかったが、もうクレープは頼んでしまった。代金を払わなければいけない。この虫蔵に、指を突っ込んで。
 震える指先で、虫が這いまわる紙幣を摘まみ上げる。メニューの数字など見たくない。値段を聞き直してあの悍ましい音をもう一度聞きたくもない。だから、絶対に足りるように紙幣を押し付けた。喉の奥が酸っぱくなるのを必死でこらえ震える指先に這う芋虫に恐怖しながら店員へ渡した。

 店員はよほど私がお金に困っているように見えたのか苦笑しながらお釣りを差し出した。
 お釣りはもはや芋虫を丸めたもの、としか形容できないものだった。小刻みに蠢き、脈動し、口を震わせる芋虫の塊たちを、引き攣る顔と溢れそうに案る涙を必死にこらえて受け取る。

 掌に広がるぶにゅりとした触感。震える手で財布に流し込むが、虫の内一つを取りこぼす。
 ちゃりん、と確かに貨幣の音がした。
 ――これは、やはりお金なのか。決して信じたくはなかったが、音は確かにそれをお金だと認識していた。

 ここで拾わなければ、不信がられる。そう思って咄嗟に手を伸ばすが、掴むのが芋虫だと気付くとその手が止まった。
 心臓がばくばくと煩く鳴り響く。これを――触ればそのまま潰れてしまいそうなこの得体の知れない芋虫を――自分から、素手で。触りたくない、嫌だ。心底そう思いながら、手を伸ばす。

 その時、前から延びた
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