R.O.M -数字喰い虫- 1/4
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もいないし……うー!」
唸りながら春歌を睨みつける美咲だったが、不意に何かを思いついたようにノートを見つめてニヤリと笑う。
「まぁそれはいいとして………春歌」
「なに?勉強教えてほしいって言うなら少しは付き合うけど――」
「そのノート、芋虫がついてるよ」
「……………え?」
一瞬の間を置いて言葉の意味を噛み締めた春歌の顔から血の気が引いていく。
ノートに、芋虫?あのブヨブヨしていて、ウゾウゾしていて、美咲がこの世で最も嫌いな――?
「……イヤァアァァァァァァアアッ!?」
美咲は恐怖に悲鳴を上げながら、1分1秒でも早く芋虫から遠ざかりたい一心でノートを放り投げた。
「……じゃ、そういうわけでこの芋虫ノートは貰っていくね?」
「へ?………あっ!?」
ノートを拾って得意げに微笑む美咲の顔を見て、春歌はようやく自分が一杯喰わされたことに気付いた。
そもそも、さっきからずっと教室内の机に置いてあったノートに芋虫などついている筈がない。つまり、あれは美咲の姑息な罠だったのだ。春歌が芋虫を毛虫に並んで大嫌いだと言う苦手意識を逆手に取った陰湿かつ卑劣な罠である。
「騙したの!?こ、この卑怯者!ばか!あほ!人でなしぃーっ!!」
「へっへーんだ!引っかかるマヌケがいけないのよっ!じゃ、借りていくから!よろしくー!!」
慌てて机から身を乗り出してノートを奪い返そうとする春歌だったが、行動も頭の回転も少しだけ美咲の方が早かった。瞬時に身を引いた美咲はしたり顔で笑いながら踵を返す。
これで今回のテストも乗り切れる。美咲はそんな矮小な達成感で胸いっぱいだった。
「………本当に、いつもいつも。どうして自分で解決しようとしないの?どうしていつも、私ばかり――」
走り去っていった彼女を、春歌が普段の冗談めかした態度とは違った憎悪のような表情を向けていることに気付かずに。
数日後、テストは自己採点では見事に赤点を免れた。
あの出来栄えならば最低でも30点……いいや、夢の50点に届くかもしれない。それでも周囲と比べると結構壊滅的な数値ではあるが、それでも赤点を突破していることには大きな価値がある。それはかつて新体操でウルトラCと呼ばれた難易度を後世の選手たちが次々に突破してきたような、限界を超えた世界。
……他人の知識を借りてという条件付きの情けない世界なのだが、それは一旦さておく。
テスト終了直後の何とも言えない柔らかさが包む教室内で、美咲は机についたままうんと伸びをした。背中の骨が小さくパキパキと鳴り、緊張状態にあった筋肉が引き伸ばされて一時的な心地よさから湿った溜息をもらす。
さて、この後に感謝と謝罪を伝えなければいけない相手がいる。
美咲が盗んだ数学
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