トワノクウ
第二十二夜 禁断の知恵の実、ひとつ(三)
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んのお相手をしてさしあげてくださいな。一人待たせるのもおかわいそうだ」
「あ、ありがとうごぜえやす!」
「相変わらずな奴……」
頭上で行き交った言葉に、くすり、笑った。
ブーツを脱ぎ終えたくうはドレスをたぐりながら菖蒲のもとへ向かう。途中で嬉々として露草のもとへ向かう平八に、すれ違いざま、会釈をして。
実は江戸時代の寺子屋では、生徒が一堂に会して教師の話を聞くスタイルはまだ主流でなかった。老師の個別カリキュラムによってレベルも年齢も異なる子供たちがバラバラに勉強する。一斉授業は素読(音読)くらいだったのだ。
『二二が四、二三が六、二四が八――』
声を揃えて九九を暗唱する学童を眺めながら、今も昔も変わらない日本の数学に不思議を感じるくうであった。
九九の暗唱に次いで除算と単位の暗唱も行ってから、菖蒲は学童に教科書を開くよう言った。何頁の何題と指定されるや、学童たちは問題に取り組み始める。
問題が解けた学童から速い者順で菖蒲のもとに紙を持っていく。菖蒲は朱筆で採点し、間違っていれば解説する。
(ていねいな教え方。言葉の端々から、教養のある人なんだって分かる)
教室の隅に座ってその光景を眺めながら分析する。
(問題の微妙なえげつなさにちょっと気が滅入りますけど。とりあえず狼と羊のパズル系はやめてほしいです。情操教育によろしくないです)
何人かが、菖蒲の採点を終えて席に戻ってから、ちらちらくうをふり返った。髪と目の色は元より、服もドレスで奇異に映るだろう。
「せんせー。この人はいっしょに勉強しないの?」
学童の一人が口にした。自分は見学しているだけだと言う前に、菖蒲が悪戯を思いついた表情をした。
「そうですね……せっかくいらっしゃるんですから一緒にお勉強しましょうか。――篠ノ女さん、次の問題を解いてみてください」
「ひゃい!?」
噛んだ。はずかしさに頬を熱くする間にも、学童の好奇の目が突き刺さる。
そもそもくうはただ菖蒲がどんな教師なのか知りたくているだけなのに。これでは公開処刑だ。
学童の一人から筆と紙を借りる。問題自体はそう難しくない。むしろチュートリアルレベルだ。
筆を紙に走らせ、次々と公式を書いていく。
「図より外接半径と線分OBの比はcos(π/n)。内接半径は線分OBに等しい。このことから外接半径と内接半径の比はcos(π/n)となり面接比はcos2(π/n)。よってこの場合の面積比は4倍」
どーだ、と胸を張ろうとすると、学童のうろんな視線がくうに集中砲火を浴びせている。おかしい。Eラーニングの高等教育課程・数学Bで習ったとおりに解いたのに。
「菖蒲先生! くうは何か間違ったことを言ったでしょ
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