第6章 流されて異界
第107話 チアガール……ですか?
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食欲をそそるカツオと昆布の出汁の香りが漂う室内。冬の短い昼が終わり、夜の帳が降りて久しいこの部屋と外界を隔てるサッシのガラス窓が、温度差により白く曇る。
家具、調度の類の少ない、やや殺風景な……。しかし、かなり広いリビングの中心に据えられたコタツがふたつ。それぞれの真ん中に置かれたカセットコンロの上には……。
「ほら、万結」
白菜やキノコの類。それに豆腐などを取り分けた小皿を彼女の前へと差し出す俺。尚、別に彼女の学ぶ洞が生臭物を食す事を禁止している……と言う訳では有りません。何故なら、彼女の妹弟子に当たる有希は、生臭物だろうが、精進物だろうが関係なく、美味い物ならば何でも口にすると言うタイプの人間。同じ相手に師事した姉妹弟子が違う戒律に支配される事は……なくはないけど、少ないと思うので……。
それに、そもそも彼女らの学ぶ洞が食物に関する戒律が厳しい洞ならば、最初から寄せ鍋などと言う鍋は用意しません。それなりの精進料理――例えば、出汁の段階から精進だしを使用した料理を考えて居ます。まして巫蠱と言う仙術は料理に関係する術である以上、肉だろうが魚だろうが、そのすべてを食材として使用し、食す系統ですから。
生命を奪うのは己が生命を保つ為。故に、食に対する感謝を忘れなければ肉であろうが、魚であろうが食しても良かったはずです。
室温により溶けかけたグラスの中の氷が、コトリっと言う微かな音を立てる時のような、何故か無機的な雰囲気を漂わせて万結が小さく首肯く。どうにも返事を貰ったと言う感じはしないけど、それでも、これすらも彼女……神代万結に取っては珍しい行為らしい。
尚、当然のようにこれは拒否を示している訳などではなく肯定。
もっとも、事前に肉や魚は食べたくない、と言うリクエストに応えて取り分けた物ですから、それを拒否される可能性は非常に低いので、肯定されて当たり前と言えば、当たり前なのですが。
「あんた、可愛い女の子には誰にでも親切なんだ」
少し冷たい視線で、鍋から発する湯気の向こう側から俺を見つめるカチューシャの少女。当然のように、その言葉の中にもかなりの棘を感じた。
普段通りの黄色のカチューシャにリボン。全体は淡いグレー。しかし、襟の部分のみ濃いグレーを使用したオフタートル……ゆったりとした首回りのタートルネックに、膝丈よりは少し短い目のプリーツスカート。色はセーターと合わせたグレー。今宵のハルヒの私服と言うのは、かなりシックな感じにまとめている模様。
尚、真冬の服装故か、普段のきっちりとした服装と言う感じなどではなく、割とルーズな……と言うかゆったりとした柔らかな雰囲気を感じるのも事実。多分、セーターが、彼女が着るには少し大きい
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