■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆生きる意味
第六拾弐話 コハレタセカヰ
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「ほら、急いでいくぞ」
彼女に声をかけてから、彼は窓の外へと身を躍らせた。ここは3階なので、ある程度の落下ダメージは覚悟しなくてはなるまい。すでにHPの回復手段は失われて久しいので、彼のHPはここ一年ほど黄色いままだ。彼はこの跳躍によってHPゲージが赤く染まることを覚悟した。
「よう、見送りに来たぜ」
ミドリが声をかけると、ベッドに横たわるプレイヤーが顔を上げた。彼女の横で椅子に座っていたプレイヤーも、片手を軽く挙げて挨拶する。
「来てくださったんですね」
ベッドに横たわる少女――外見は少女だがすでに60歳を超えている――は掠れた声で応えた。
かつて『竜使い』と呼ばれた彼女も、すでに相方の小竜はAIへの過負荷で消失してしまい、今やビーストテイマーとは呼べなくなっていた。傍らの少年の膝の上に丸まっている毛玉も、背中にいくつもの結晶が張り付いてしまっていて、満足に動くことはできない。
少年が毛玉をこわばった右手で撫でると、毛玉はなんとか首を持ち上げ、つぶらな瞳で飼い主を見つめた。しかし少年はそれを見ることすらできない。視力を失っているからだ。
ミドリの後に続いて女性が入ってきた。かろうじて花とわかる形状の物質を持っている。ストレージは半年前から機能しないので、ミドリの部屋からここに来るまでのどこかで摘んできたのだろう。
「ストレアさんも、ミドリさんも……わざわざありがとうございます」
「なに、気にするなって。どうせ暇なんだ。お前らが最後だしな」
「……そうか、わたしたちが最後なんですね。そっか、これで終わっちゃうんだ」
少女は悲しそうに笑った。少年が少女の手を握ると、彼女は少し驚いて少年を見、そして彼の手を握り返した。
「……それでも、僕はこの世界に来れて幸せだった――って言ってますよ」
少女が少年の言わんとしたことを通訳すると、ミドリは悲しそうに俯いた。
「こんな最後でも、幸せだったと言えるのか……」
「わたしも、この世界に来たことを後悔なんてしません。ここに来れたからマルバさんに逢えたんですから。それを思えば、こんな最期も悪くないって思います」
ミドリの頬を涙が伝った。そんなミドリに代わって、女性は少女に花を渡す。
「これ、あげるね。本当はすべて終わってから渡すつもりだったんだけど――シリカちゃん、お花なんてしばらく見てないでしょ」
少女は花に対し目を凝らした。ディティール・フォーカシング・システムの起動を十数秒間待った後、彼女はようやくその花をとらえた。
「わあ、ありがとうございます。これは――グラジオラス、ですか。珍しいですね」
「最近じゃ、タンポポとかも殆ど見かけないもんね。園芸種なんてそれこそ珍しいよね」
女性はふふっと笑った。少女も楽しそうな笑みを浮かべたが――すぐ
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