第一部北領戦役
第十三話 意義のある誤ち 意義のなき正しさ
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大隊 大隊長 馬堂豊久
「少佐殿・・・自分は・・・貴方の様に正しくは・・・」
彼の末期の言葉が耳に残る。
――違う、俺は正しく何か無い、弱者の理論を武器にして皆を言い包めただけだ。
俺は誤っていないだけで正しい軍人ではない。
寒風が――吹いた。思考が打ち切られ、豊久は自分の場違いな思考――新城の言う所の贅沢な思考に浸る自分に気づいた。
――駄目だ。奴の言っていた様に割り切らなくては。
馬堂少佐は慌てて己を再編する、アルキメデスみたいな死にかたをするほど脳内象牙の塔に引きこもるつもりはない。
――今、必要なのは……取り敢えずあれをもう一回やられたら終わりだ、時間も稼ぎ、最早これ以上戦うことに意味はない。
「西田少尉。青旗を持ってきてくれ。」
淡々とした口調でそう云うと大隊長は捕虜であるバルクホルン大尉の所に向かう。
「バルクホルン大尉殿」
「何だろうか? 少佐殿」
「我々の戦況はどうも戦況とよべるものではないと認めざるを得ません
つきましては――」
「解っています。少佐。どうやら立場が変わったようですね」
勇壮な顔に笑みが浮かぶ。
「ええ。どうやら本来あるべき正しき立場に――部下達には通じないから言える事ですが」
唇を捻じ曲げ、大隊長はそれに応える。
「お願いできますか?大尉
一つ最後に蛮族共の人質になっていただきたいのだが」
「ご一緒しましょう。少佐殿。私の凱旋の為に肩を貸していただきたい」
涼しい顔で応答した騎士大尉に声を上げて笑うと馬堂少佐は勇壮な騎士に肩を貸して、青旗を掲げた権藤軍曹が引き連れて森を出るべく歩み出した。
部隊から離れた辺りでバルクホルン大尉が諫める様に口を開いた。
「少佐殿、貴官は若い様だが先程の様な物言いは止めた方が良い。」
「申し訳ありません。どうも戦闘が終わると思うと気が緩んでしまった様で。」
――やはり誇り高く、公明な騎士なのだな。
自身に欠けた模範的な軍人貴族のそれに妬気を抱きながらも前へと歩む。
破壊された砲と騎兵達の死体が境界をつくり、森が拓けた、それを超えると、途端に騎兵達の殺気立った視線が蛮族達へと突き刺さる。
青旗とバルクホルン大尉を見て歓声と戸惑いが広がるのを見て、豊久は密かに冷や汗を流しながら安堵した。
――最後の命綱の効果は上々、か。いなかったら踏み潰されていたかもしれない。
「降伏の為の軍使を受け入れて頂きたい。」
前に出て来た士官に声をかける。
先程、刻時計を見たら宣言した時間をやや過ぎていた。
彼を包囲する兵の数を改めて見て、最後の仕事も果たせた確信に自然と少佐は頬を歪めた。
その時、はじめて霧が晴れている事に漸く気がついた。
――やはり疲労している様だ。
「宜しい
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