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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十三話  意義のある誤ち 意義のなき正しさ
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た。
 ――最低の戦場に適応し変化したのか。 ひょっとしたら俺なんかよりもっと優秀な――
 豊久の持病ともいえる分析癖が頭をもたげるが、戦場の現実はそれを許さず杉谷が矢継ぎ早に報告を行なった。
「鋭兵部隊、砲兵、軽傷者込みで戦闘可能人数、四十三名です。
ですが、矢弾も尽きかけておりますので、そろそろ騎兵相手に白兵戦を仕掛けねばなりますまい」

「ふむ、時間は十分稼げたし敵も消耗している、後もう少し持ち堪えれば、我々が――」

「大隊長殿!敵が集結しています!」
 西田少尉が駆け戻り、剣虎兵を集結させながら叫んだ。杉谷も施条銃を担いだ兵達を寄せ集め、向かっていく。
――いよいよ不味いな 膠着状態に焦れたか!
「打ち方用意!!」
 杉谷少尉の指揮の下で、鋭兵達は射撃を行い、敵を押し返えそうとする。
 ――後少し、後少し保たせなくては・・・
「少佐殿!敵の・・・」
 漆原が戻ってきた、そして――銃声が、響いた。


同日 正午  街道より約半里 林内
独立捜索剣虎兵第十一大隊 遅滞戦闘中隊 剣虎兵小隊 小隊長 西田少尉


 敵の騎兵は森林内では行動が制限され下馬した状態でしか戦闘ができない、
だからこそ馬堂少佐は本隊が追いつくまでは此処で誘引すること考えたのだ。
だが、そんな事は敵も承知している筈だった、それを理解していた西田は敵が射撃を受けるとあっさり後退するのを見て違和感を抱いた。
 ――おかしい。
西田がそう直感した瞬間、後方で銃声が響いた。
「しまった!総員後退!」

「・・・やってくれる。」
 騎兵銃を装備した小隊が徒歩で奇襲をかけたのであった。
馬堂少佐が五名程の兵を直率し応戦しているが数が違いすぎ、自らも鋭剣をふるい、白兵戦を行っている。
 捕虜のバルクホルン大尉は足を負傷しているからか静観している様だ。

「剣虎兵小隊!突撃ぃ!」
此方に気がつき逃げ出そうとするがそうはいかない。
隕鉄が咆哮し、飛び掛かった。

 ――即座に殲滅出来た。
 だが、漆原は背中に数発の銃弾を受けており、西田に続いて駆け寄った療兵は首を振る。

「大隊長殿、助かりません。急所は外れていますが
これでは苦しむだけです。」

「・・・」
馬堂少佐は目に哀切な光をよぎらせ、頷く。
 漆原が何かを呟く
「漆原?」
 馬堂少佐が耳をよせ、
「――――」
何を聞いたのか無表情に銃口を心臓の上に乗せた。
「違う、俺は・・・」
何事か呟き引金を引いた。

そして、何かを堪える為に瞑目する。
 寒風が吹くと、目が覚めたかのように頭を振り、馬堂少佐が絞り出す様に言った
「西田少尉、青旗を持って来てくれ。」


午後第一刻一尺 街道より西方二里 森林内
独立捜索剣虎兵第十一
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