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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十三話  意義のある誤ち 意義のなき正しさ
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皇紀五百六十八年 二月二十四日 第十三刻小半刻前 街道より西方二里 森林内 
独立捜索剣虎兵第十一大隊 遅滞戦闘隊 大隊長 馬堂豊久


「杉谷少尉!現状報告を!!」
 声を掠れさせながらも中隊長となった馬堂豊久少佐は戦意を失っておらず、吠えたてた。
「火力を完全に喪失してしまいました。
剣虎兵達は頑張っておりますが、もう霧が晴れたら時間稼ぎもままなりません。」
 杉谷少尉が鋭剣を拭いながら云った。
「――よりによってこの俺が砲兵にも銃を持たせるなんてまさに末期も末期だな」
 煤と血で全身を汚した馬堂少佐は舌打ちをして呟いた。
 ――敗軍らしい竜頭蛇尾の戦だよ。ホント、竜頭蛇尾・・・か。
「そう言えば俺が指揮権を受け継ぐあの夜襲前に天龍に出会ったとか新城大尉が言っていたな――此処までどうにもならないのならいっそ龍神の加護でも祈るか?」
 それでも尚、唇は歪み、ふてぶてしく笑みを浮かべている。
「今までの博打の出目の良さにこの濃霧、寧ろ天の配剤をしかと受け止められたからで、これ以上を望むのは不遜でしょうな」
 確かに、杉谷少尉の言葉は事実であった。
 遅滞戦闘隊は20名近く戦死者を出し負傷者を含めるとほぼ戦闘力を喪失していたが敵はその倍以上の痛手を被っていた。
 だがそれでも敵は追撃戦で本隊を潰すには十分以上の戦力を保っており、二個大隊強の兵力で中隊の残骸を包囲している。
 側道陣地戦で渡河した一個大隊を半壊させたのでこれでほぼ全戦力を拘置できていると判断できた。
 ――流石に猫の数までは解らないだろうし、本隊の戦力を過大評価しているのだろう、実に都合が良い。
 半ば痙攣的な自棄であったが、諸兵科連合としての強みを一個中隊に集約した賭けは、なんとか勝ったようだ。
「此方の実情は厳しいからね。睨み合いは大歓迎だ」

「あちらさんも今まで付き合って下すったんだ、もう少しばかり気が長いままで居て欲しいですな」
 杉谷が腹をくくっているのを見てとった馬堂少佐は軽く背を叩いて、療兵達のとこへと向かっていった。

「冬野曹長は?」

「命に別状は有りません。ですが意識が戻るまでは暫くかかります。」
 療兵伍長が安堵の溜息をつきながら教えてくれた。
 冬野曹長はギリギリまで騎兵を引きつけ、散弾を叩き込んだ代償として敵の白兵戦によって負傷していた、生きていただけでも幸運である。
 ――生きて戻れたら希望に沿った選択をとれる様にしてあげなくてはいけないな。

拳銃の火皿に玉薬を注ぐ。
「漆原少尉、杉谷少尉、戦闘可能人数。」

「剣虎兵隊、戦闘可能人数 二十二名、猫五匹です。
西田小隊長が一個分隊に猫二匹を直率し、警戒位置に付いています」
  漆原も自己を再建したのか、かつての素直さと感じさせる口調で応え
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