黎明の光が掃う空に
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の仕事を選んで、既に命を賭けている。地獄のような戦場を幾多も越えて、“自分達の為に戦ってきた”。なら、これからも今まで通り彼女達と共に戦えばいい。
何より……母を想い、友を想い、尽力してきた優しい少女を殺そうとしている輩を、男として許せるかと言われれば……断じて否だ。
「……くくっ」
初めてだった。心の底から溢れてくる熱さがあるのは。冷たい戦場ばかりしてきた張コウ隊の自分達が、こんなに心高ぶるのは。
故に漏れた笑み。嘲笑では無く、ただ不敵。どこぞの黒い部隊の如く、ただ傲慢に、楽しげに。
「いつも通りあなたの命に従いますよ、田豊様」
「例えこの命朽ちようと、助力をさせてください」
頭のいい彼女が此処まで言うのだ。きっと決死の戦場があるのだろう。それであっても、彼らの心に恐怖は無かった。
なんの事は無い。それがどうした。戦うなら、死ぬ可能性など腐るほどあるだろう。命欲しさに逃げ出すくらいなら、頭を垂れるくらいなら、無様な醜態を晒すくらいなら、張コウ隊で兵士など続けては居ない、と。
一寸だけ、哀しい眼差しを向けた夕は……二人の頭を撫でた。まるで明に、そうするように。
「ん、ありがとう。あなた達二人は明の代役。だから真名を預けた上で命じよう。私を必ず守る事。私の真名は……夕。橙色の空を、この世界に」
――御意に……我らが軍師様
誇らしげなその声は……歓喜に溢れていた。
あの化け物と同等の扱い。決して辿り着けない場所に立つ自分達の将と同じ。そう認められる事が、どれだけ嬉しい事であろうか。
真名は決して軽くはない。軽々しく預けるはずも無い。彼女は正しくその存在全てを、彼らに託したのだ。
ガタゴト、ガタゴトと馬車が揺れる。
宵の闇深く、日の光の当たらぬ、朧三日月の明かりだけが差し込む街道を夕暮れの少女が進む。
月が哂うのは少女か、誰か。
一縷の希望に縋りつく彼女の元には……幾多も黒い影が近づいて来ていた。
幾分か進んだ所で鳴った敵襲を知らせる笛の音は、黒と赤の元にはまだ届かず、朝は遥か遠くであった。
†
地を駆ける大きな黒馬の背には、男と女が乗っていた。
闇夜に溶け込み、風のように走る月光の速度は通常の馬のモノよりも尚速く、それでいて体力がある為に、休息を最低限に抑えているとしても倍近い距離を進めていた。
白馬と延津を避けるとすれば向かう船着き場は限られてくる。曹操軍の情報と照らし合わせて、選んだ街道は一本だけ。郭図の動きも読み切っているなら夕が選ぶ道は戦闘を考慮したモノになる……それが明の予想。
秋斗に背を預ける明は、必要な事以外話さずに此処まで来ていた。
疑問は多々ある。記憶を失っていると聞いて、衝撃を受
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