黎明の光が掃う空に
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頭を垂れる事無く、勝手に乗れと態度だけで表して……柵を外された厩から月光は自分だけ歩いて出る。
飛び乗った彼の外套がバサリと揺れた。
首筋を撫でてくれる手癖と、彼だけを乗せているその重みが懐かしくて、月光はほんの小さく、寂しい声で嘶いた。
†
ガタゴト、ガタゴトと馬車が街道を揺れる。袁紹軍の筆頭軍師を守るは大凡二百の精兵。
古くから付き従ってきたその兵士達は、少女の願いがなんであるかを知っている。
漸く報われるかもしれない、と聞かされた。自分達の従っていた軍師が助かるのだと、歓喜に震えてもいる。
向かう先は延津よりもさらに西。先に幾人かの兵士に馬を持たせて船の確保に向かわせていた。
馬車の中で、夕は二人の兵士に守られている。一番力があるそのモノ達は、明の言いつけを破らず、夕の命令にも絶対服従の最精鋭。
夕刻から直ぐに出立した皆であったが、休む間もない行軍の中、歩きながら簡易な食糧を口にしていた。
ただし、夕と最精鋭は口に入れない。疑い出すとキリが無いが、万が一、毒が入っている事も考えて。
味方を疑うなと誰もが言う。麗羽や斗詩、猪々子を信じられないのかと責められれば口を噤むしかない……が、信じるに値しないモノが軍に一人いるだけで、警戒はしてしまうモノ。
「あなた達にだけ言っておく」
近衛兵の二人は、突然の語りかけに驚く事無く、真剣な表情で夕を見つめた。
「母は殺されている可能性がある」
絶望に揺れる黒瞳は己が内にだけ秘めていた真実を突き付け、茫然とした兵士達は信じられないというように目を見開いた。
「な、何故っ……何故且授様が殺されなければならないのですかっ! あれほど袁家に尽くしてきた方は居ないでしょうに!」
「母を私の牽制の為の人質にしていた上層部には、この戦で勝ったら私と明が復讐に走るかもしれない……そう考えるモノが多い。なら……どう来るか、分かる?」
夕は他者に思考を詰ませて育ててきた。これまでもそうして、幾多の人間を押し上げてきた。
言われて思考に潜る兵士二人は、首を傾げる。それほど教養が身についているわけでも、知恵知識があるわけでも無いモノ達には分からない。それでも夕は、問うてみたかった。いつも隣にいた愛する少女、明にするように。
「母を殺した上で、私と明を殺す。きっと帰ってからか、帰るまでに私には襲撃があると思う」
「なっ……」
絶句。
何故、これほどまで袁家に尽くしてきた二人が殺されなければならない……兵士達は夕の顔を信じられないモノを見るような目で見ていた。
「お金、権力、地位、名誉、栄光……甘い甘い蜜の味を知ってしまうと、人は他を蹴落としてでも手に入れたがる。
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