黎明の光が掃う空に
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を上げて助けを呼びたかった。弱った心は、救いを与えてくれる黒をただ望む。
一番大切なモノも救えるかもしれない。自分が嘆願すれば、麗羽達ですら救えるかもしれない。夕の心には光が溢れた。
「ふ、笛をっ……吹いてっ」
急ぎで命じた夕は、自分が笑みを浮かべている事に気付かない。
満たされる心は、洛陽で交わした約を守ってくれた彼に歓喜を向ける。
街道から離れたこの場所では、まだ遠い。
敵の攻撃が一寸止まっていた。矢も、人も、全てがそちらに意識を向けていた。しかし張コウ隊の笛の音で、より一層慌ただしく敵が動き始めた。
「円陣で防御。此処だけ……此処だけ頑張って。大丈夫……あの子も、来る、から……」
兵士の背に守られながら、夕は耐えきれずに涙を流した。
――明、秋兄……助けてっ……。
幾多の断末魔と、怯えからの悲鳴が遠くで上がる。先ほどまでとは全く違う空気が辺りを包み……二つ、獣のような雄叫びが聴こえた。
愛しい彼女の声と、恋しい彼の声。
夕はただ、願いを込めて兵士の背で揺られる。暗闇の戦場は淡く薄く、絶望の方が濃いのは当たり前で。
彼と彼女が引きつけてくれているからか、敵の攻撃は幾分かマシにはなってきた。
周りは敵だらけ、幾多の矢が飛び交う戦場……それでも彼女の希望は手が届く距離にあった。
まだ遠く、声のする方に手を伸ばす。あと少し、あと少しだろう、と。
瞬間、ぐらり、と彼女の身体が揺れた。投げ出された先で見やれば、背負っていた兵士には幾本もの矢が突き刺さっていた。
それも直射ではない刺さり方。林の中で曲射など出来るわけも無い……ならば……
「あ……」
「……っ……夕様っ!」
見上げた先には敵が数人。今にも矢を放とうとしている姿が見えたのと、最精鋭の兵士に声を上げて抱きすくめられたのは同時であった。
木々の隙間から見えた空の黒が薄くなり始めて、もうすぐ朝が来ると教えてくれていた。
†
笛の音が応えたのは林の中。
秋斗が月光を止めるや否や、明は飛び降りて音の方へと駆け出した。
もはや抑える気も無い。全て、全てを殺してやる……殺意に燃える彼女は、一匹のケモノと化していた。
一人、二人と殺してから雄叫びを張り上げた。気合を入れる為では無い。敵を殺す為だ。普段なら暗殺主体の戦い方をするが、寄り来る敵はさすがに多すぎて、時間を掛けたくもなかった。
彼女が無事であればそれでいい。生きていてくれればいいのだ。
――邪魔だ、クソ袋共。
動かない腕は無理やりにでも動かすと決めている。痛みなど気にもならない。
感覚の鋭さを以ってして来る矢を鎖で全て弾き落とし、片手で振るう大鎌は頸を一つ二つと飛ばしてい
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