黎明の光が掃う空に
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な?」
「あなたの事食べていい? とか……あー、言われてぇー」
「死ぬほどの痛みと引き換えにしてでも言われてぇのかよお前……」
「……逆にそれがいいと思うんだが」
「きめぇ。いつも通り踏まれて蹴られるだけで我慢しとけよ」
「いや、お前も大概だからな?」
元気づけてやれればいい、せめて笑い話でもしてやれば、彼女は泣かないでくれるのではないか。そんな想いから、彼らは小声で日常会話を喋り出した。
茫然と、夕は彼らを見つめる。
皆が明のような剽軽さで、自分を泣かせまいとしているのだ。傍に彼女は居ないが、彼女の話が出てくるだけで……涙が止まる。
バカだ。バカがいる。絶望的な状況なのに、そんな事は露ほども感じさせない彼らの空気に、夕の頬が少しだけ上がった。
「ふふっ」
小さな吐息と笑い声。聞いた皆も、頬が緩んだ。
ああ、この笑顔が見れただけでも満足だ、と。
「絶対助けますぜ」
「死んでも守ってみせます」
真名を預かった最精鋭の二人が声を上げると、皆も一様に頷いた。
皆の心は一つ。この少女を必ず助けてみせよう……それが自分達のしたい事で、自分達の為だった。
「ん、ありがと。あなた達を信じる」
頷いたのは同時。誰ともなく、一人の背に夕が乗り、一寸だけ目くばせをし合った彼らは……また絶望の戦いに向かっていった。
草が揺れる音。地を駆ける音。後ろから、横から、前から……敵兵はどれだけいるのか、やはり分からない。
一人、背中に矢が刺さり倒れ伏した。
一人、木の合間から槍を差し出されて命を零した。
一人、前から迫りくる敵兵と刺し違えて道を作った。
詰将棋のような戦場には、打ち手など必要ない。たった一つの大将を“歩”である兵士達が一丸となって守り抜き、最期まで残せたら勝ち。
誰も救援など来ない、歩のみの戦場。自分達だけで遣り切ってみせようと、そう心を高めてただ駆けていた。
そう誰もが思っていた。
遠く、遥か遠くから音が聴こえる。
自分達が持っていない音で、本来なら絶望を感じるはずの音。
――ああ……
徐々に近づいてくるその音は、彼女が慕うモノの証明。彼の扱う黒麒麟の嘶き。
――秋兄は……私の策を読んだんだ。
此処に来たという事は、明が自分の逃げる道を判断した事に他ならない。
――私はまた秋兄に負けたんだ。明が私を信じる心を、助けたい心にすり替えたんだ。
不思議と敗北感は無く、悔しさも屈辱も感じない。明が心を開いたのなら、それはそれで嬉しかった。
――ごめんね、麗羽。私……負けたみたい。
袁家の敗色がほぼ確定したというのに。それでも彼が助けに来てくれた事も、嬉しかった。
涙が出そうになる。声
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