黎明の光が掃う空に
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く微笑んだ。
「あなたに嘘は付けないみたいで。ええ、毒矢も使ってると思われます」
「そう……」
いつもいつもやり口が汚い……毒づきそうになるも、夕は抑え込む。相手が行っているのは殺しの為だけなのだから、弱者の弁舌に他ならない。
徐州で彼を追い詰めたように、夕も郭図に追い詰められた。
誰が聞いても逃げられないこの状況。戦術で引っくり返せるはずもない。武将が一人でもいれば違っただろう。されども此処には、非力な軍師と兵しかいない。
――どうして、私には力が無いんだろう。
泣きそうだった。非力な自分を呪った。頭が良くても、どれだけ有力な策を捻りだせても、彼女自身には何も力が無い。
――どうして、私には絶望しかないんだろう。
叫びそうだった。袋小路を呪った。自分はただ、母と共に幸せに暮らせたらそれでよかったのにと、与えられた運命にもう抗えなくて膝をつく。
――どうして、私は世界を変えられないんだろう。
縋りたかった。誰でもいい、誰か自分達を救ってくれと、希った。一筋の光明さえ当たらぬ夜……そこから救い出して欲しいと。
「……ごめん、ね」
ぽたりと……夕の膝に落ちた雫は一つ。
ぽたりぽたりと……広がって行く波紋は衣服を染めた。
震える声で、彼女は懺悔を零す。
「私のわがままで、巻き込んで」
救われたい。そんな想いがあるのかもしれない。誰かから責められれば、罪深い自分は救われるのではなかろうか、と。
兵士達は何も言わない。じ……と夕を見つめて言葉を話せなかった。
初めてだった。いつも無表情な彼女の涙を見たのは。自分達には及び付かない智者が、ただの少女だと本当の意味で教えられたのは。
理不尽を呪えばいいのに、弱音を吐き出せばいいのに……彼女は口にしない。
隣に居るべき紅の将にだけ見せていた姿を、彼女は兵士である自分達にも見せるほど……絶望している。
轟、と燃えるのは心か。
握られる拳から滴る雫は憎悪からか。
否……ただ、彼らは自分達の無力が不甲斐無くて、許せなくて、悔しかった。
こんな時、どういった言葉を掛けてやればいい?
きっと自分達の将なら抱きしめて、頭を撫でてやるのだろう。
自分達がしていいはずも無いが、せめてと……彼らは、笑った。広がるのは紅揚羽のような不敵さであった。
「俺らがしたくてしてんです。謝らないでくださいや」
「田豊様を泣かせた奴等は皆殺し確定だなこりゃ」
「はっ……いんじゃね? 殺してやればすっきりすらぁな」
「ってか守れなかったら俺達……食事場行きだぜ?」
「マ……マジで嫌だ。虫刑とか皮剥ぎ刑とかネズミ刑とか……考えただけでゾッとする」
「そういえば、耳元で囁いてやるんだーって言ってたよ
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