黎明の光が掃う空に
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れも育ちも人間様のもんだよ。ただ、もし人じゃないとしても……人でありたいなぁ」
バレる切片は事実として残っている。よって、他者に結論を預け、ぼかしたモノに本心を混ぜ込む。
人では無いモノから言いつけられた使命、それを全うする為に落とされた異物。一度死んでいるくせに生きているわけのわからないモノ。弄られた身体能力は彼にとって化け物に等しく。他者の心が介入した脳髄は人では有り得ない。
それでも、彼は人でありたかった。皆と同じ、一人の人として戦いたかった。
哀しい声を耳に入れ、明はふーんと興味なさげに前を向く。
「じゃあ期待はしない。化け物みたいな力をまた使えるなら生存確率は上がるかもって思ったけど無理そうだね」
「……ありがと」
「べっつにー。秋兄が人じゃなくてもどうでもいいし」
狂人だ、異端だと言われてきた明にとっては些末事。そんな気遣いを受けて、秋斗は素直に礼を一つ。
にやりと頬を吊り上げた明はそのまま、目を細めてまた彼を見た。
「でもー……秘密にしてあげるし誤魔化すの手伝ってあげるから、夕の事よろしくね♪」
脅しに近い押し付け。どうであれ彼女は夕と秋斗をくっつけたいらしい。
空にため息を零した彼は……
「……考えとく」
逃げの一手をいつも通りに打った。
「うわー、卑怯者の言い方じゃん。やっぱ秋兄ってさいてーだ♪」
はしゃぐ明は心を誤魔化す。そうすれば、まだ絶望から離れてられるから。
風を切る月光の上で、赤と黒の二人は穏やかさに包まれたまま他愛ない会話を繰り返し……幾刻。
宵が深まる朧三日月の闇に、慣れた夜目から異常なモノを視界に入れた。
一つ、二つと林街道の脇に倒れるナニカ。石が転がっているなどと間違うはずも無い。
彼が手綱を引いて、月光を停止させる。直ぐに飛び降りた明は、
「……」
無言でソレに近付いて確認していた。
見慣れているいつもの肉袋。いつもならたかだか他人の死体などには心が動かない……が、焦燥と憎悪と苦悩が渦巻く。
死後硬直の度合いを見ると、死んでからどれだけ立っているのか大凡の予測を立て。
強張る表情と、握られる拳。びしゃ、と彼のブーツが雨が降っていないのに水分を弾いた。小さな血だまりに波紋が広がる。
「……張コウ隊か?」
「……うん」
彼女は部隊のモノの顔を覚えている。暗殺や間者に対する警戒の為に最精鋭の二百は特に余すところなく。
「急ぐぞ」
「……うん」
震える肩を叩いて、彼と彼女はまた月光に乗る。
また泣きだしそうになった赤の少女を緩く抱き締めた秋斗は……黒麒麟の相棒に静かで昏い声を一つ掛けた。
「月光、最速で頼む」
大きな嘶きと共に走り出した彼ら。
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