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青い春を生きる君たちへ
第14話 下らない昔話
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小倉は一人の少年の前で立ち止まる。赤井淳二。赤井監督の息子だった。実力は大した事ないが、監督はこの一人息子をあからさまに優遇して即一軍入りさせ、そうやって守られてる自覚があるからか、赤井自身もやたらと鼻っ柱の強い奴だった。上級生が抱く一年生への不満、その多くの部分を、この赤井一人で占めていた。この時も、小倉を目の前にしても怯えた素振りなど一切見せず、むしろ睨みつけるような顔で小倉を見返していた。


「……てめえは、本当に分かってんのか!?てめぇ一人余計にメンバー入ったおかげで、先輩が一人球拾いに回った事をよォ!!」
バキッ!
「誰も納得しちゃいねぇんだよ!二軍戦でも二割がせいぜいのお前の昇格には!」
ボコッ!
「その癖お前は何だ!?まるで自分が偉くなったような面しやがって!今日も3年の橋本さんに後逸した球拾いに行かせただろうが!七光りがそんなに嬉しいか!?」
ドスッ!
「メンバーに入ってお前がすべき事はなァ!偉そうにする事じゃねえ!一刻も早くメンバー入りに相応しい選手になるよう努力する事だ!気持ちばかり大きくなるな!!」
バキッ!!


何度も何度も小倉は拳を見舞った。一年生はもちろん、その迫力に慄いたし、上級生でさえ、小倉の言葉とその仕打ちの激しさに、何も言えないし、何もできなくなっていた。周囲の視線を一身に集めながら小倉は、正しくない"教育"を、自分の正しさに則ってやり切った。それは、卑怯を嫌った小倉の、卑怯を好む"民意"への、ささやかな抵抗だった。どうせ、正しくない事をやらねばならないのなら。だったら、相手の恨みの視線も全て受け止めなければなるまい。毒食らわば皿まで。殴っておきながら、恨まれたくないなんてのはナンセンスだ。そういう信念のもと、小倉は自分自身の存在を相手に見せつけながら殴り続けた。

そして、そんな潔癖が、小倉の命取りになった。
翌日、小倉は監督室に一人で呼ばれた。



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「……ふーん。で、お前は殴って一年を教育したっちゅうんやな」
「はい」


監督室の地べたに小倉は正座させられていた。いつもとぼけたような態度の、狸という喩えがピッタリの小太りな監督は、しかしこの時に限ってはニヤけた顔も一切せず、ずっと深刻な真顔だった。殆ど見た事がないこの表情は、つまりは多大な怒りというものを表していた。


「そーかぁ……教育の為の暴力のォ……例えば、こんな風にか!!」
バキッ!!


監督は椅子からおもむろに立ち上がり、正座した小倉を思い切り蹴飛ばした。小倉は吹っ飛ばされ、監督室の壁に叩きつけられた。体勢の崩れた小倉に、監督は容赦なく何度も蹴りを見舞う。うちの一発が鼻っ柱を掠め、鼻血が垂れ
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