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青い春を生きる君たちへ
第14話 下らない昔話
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引きつっている。教育係の小倉に呼び出された時に、ロクな事があった試しがないという事を、一年生達も体で学んできていたのだ。その列の周りには、ニヤニヤしながらバットやボールなどの"得物"を持って、今か今かと待ち構えている上級生……それまで小倉に"お預け"されてきた、2年生の姿が目立つ。

小倉は、自分が、それをやる立場になった事に、イマイチ実感が湧かなかった。別に、一年生達に同情して、今までこれを避けてきた訳ではない。むしろ、一年がノロノロしてると腹が立つし、たるんでると制裁は加えたくなる。ただ……この儀式の、やり方が気に食わなかった。卑怯だったから。


「……目ェつむれ」


小倉が言うと、一年生は目を閉じて、リズムスクワットをするべく個々の距離をとる。それと同時に、得物を持った上級生が、一年への包囲網をグッと縮めた。これだ。小倉は体が粟立った。誰がやったか分からないように、一年生には目をつむらせ、ガードできないようにリズムスクワットを延々とやらせる。殴ってでも分からせる。それは別に良い。そういう考えもあるだろう。しかし、それが正しいと思ってるなら、何故こんな、報復を恐れるようなコソコソした真似をする?自分の正義を行うのに、なぜ堂々とできない?脳裏によぎった疑問符は小倉の腹の底を沸き立たせ、その熱は遂に小倉に「目え開けろ!」という怒鳴り声を発させた。一年生相手に包囲を縮めていた上級生が一斉に怪訝な顔を小倉に向けるが、小倉はそんな視線に遠慮する気は全くなかった。


「おら、さっさと跳べ」
「は……」
「リズムスクワットだよ、さっさとやれよ!」


小倉の怒鳴り声に、一年生は慌てて両手を頭の後ろに組み、リズムスクワットを始めた。いつもの"7時雨天"とは違い、その目は開いている。一年生をどれだけいたぶってやろうか、楽しみにしていたはずの上級生は、ただ、自分を見返す視線があるというだけで固まってしまっていた。始める前までの勢いを削がれてしまっていた。ただ一人、小倉を除いては。


「西村ァ!てめぇはいつもいつもユニフォームの洗い方が雑なんだよ!自分のはいつも綺麗な癖になぁ、おい!」
「げふっ!」
「庄司!お前がマウンド整備するようになってから明らかに傾斜が無くなったぞ!できた穴だけ塞ぎゃあ良いって整備してるからだ!お前のマウンドじゃねえんだ、責任持ってやれ!」
「ぎゃあ!」


小倉は悪態をつきながら、次々と一年生に蹴りや拳を見舞っていく。その一撃一撃が、情け容赦のない渾身の一撃だった。一年生はどんどんその場に倒れ、スクワットしながらその様子を見ている他の一年生の表情が恐怖に凍りついていく。一年生の恐怖一色に染まった視線を受け止めながら、小倉は血祭りにあげていった。


「赤井ィ……」
「…………」


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