暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
人間の殺意は時に向ける先を間違えてしまう
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時は数分前に遡る。
『茶番は終わりだよ、殺し屋諸君。ああ、裂綿隊の面々も含まれるよ。君達の姿は世界に筒抜けだ』
ツー、ツーという通話終了を告げる無残な音色がケンジに更なる絶望を与える。彼の着ている黒パーカーの袖からは赤い液体が地面に向かって伝っており、逆にそれしか外傷を負っていないのが彼の非凡な才能を発揮していた。
ケンジの前には田村要が荒い息を吐いて立っていた。手に形が付くぐらいにナイフを力強く握りしめ、じっとケンジを見つめている。まるで彼から自分が得られなかった何かを盗み出そうとしているかのように。
その視線に耐えられず、彼は顔を上げて周囲をぐるぐると回るヘリコプターに目を移した。
吹き荒れる風が頬を何度も打ち、意識の暗転を許さない。もう時間はなかった。ケンジは再び要を見据え、対話の言葉を漏らした。
「……もう終わりだよ、田村君。これ以上は自分を苦しめるだけだ」
「それは嫌味か?俺はとっくに苦しんでるさ」
はあ、と息を吐き要は邪魔な前髪を左手で額を拭うようにしてどけた。そして再びナイフを構え直す。
「それに『俺ら』はここで終わる気なんざないんだよ」
そこでケンジは僅かに目を周りに移動させた。赤島や宮条、法城が残存する裂綿隊と戦いを続けているのを確認した後、もう一度要と目を合わせて言葉を紡ぎ出した。
「田村君はどっちの世界にいるんだい?」
「世界?」
「うん。学校行ったりバイトしたりする世界と、人を殺して金を稼ぐ世界。僕は多分、その狭間なんだと思う」
「……」
「どっちにも属していないからこそどっちもできるし、その分、中途半端になる。なんだか僕の生き様みたいだ。ていうか、生き様だ。でも、あの人を殺せば僕はこの世界から抜け出せる。そうすればきっと……」
「それはない」
ケンジの言葉を要が一刀両断に断ち切る。驚いた顔をする彼に対して、要は険の色を滲ませてこう言った。
「例え大河内を殺したとしても、お前はこの世界から抜け出せない。仮に足を洗えたとしても、その罪は一生お前の後ろに着いて来て離れないぜ」
反論のしようがないその言葉を受けたケンジは――笑った。
訝しげに眉を
顰
(
しか
)
めた要にケンジは素直な思いを告げた。
「やっと前向きなことを言ってくれたね。それでこそ常識人の田村君だ」
「は?」
「君は言ってたよね。僕は希望で、君は絶望だって。でもそんなことはないんだ。君は僕とは違って何でもできるし、カリスマ性だってある。君は周囲から浮いてるわけじゃなくて『羨望』されているんだよ」
「羨望?」
「そう。何でもできてルックスの良い君を妬むクラスメイトが何人いるか知ってる
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