第百八十九話 その一手その八
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「家が残る方を選ぶ」
「そうなりますか」
「毛利は天下を望んではおらぬ」
このことも既に見抜いている信長だった。
「確かに大きくなることは望んできたがじゃ」
「天下まではですか」
「望んでおらぬ、ならばな」
「和睦ですか」
「最後の最後になればな」
それを選ぶというのだ。
「だから我等はな」
「毛利を和睦するまで、ですか」
「追い詰めるだけじゃ」
それが今の戦だというのだ。
「わかったな」
「さすれば」
稲葉は信長のその言葉に頷いた、そうしてだった。
織田家の大軍は新たに加えた宇喜多家を主力とした備前の者達を先頭に立てて備前を進み備中に入ろうとしていた。
その中でだ、秀家は叔父の忠家にこう言っていた。
「叔父上、それがしが思うのですが」
「うむ、何じゃ」
「はい、右大臣殿はどうやら」
「間違いなくかなりの方じゃな」
「叔父上もそう思われますか」
「天下を治められる方じゃ」
まさにというのだ。
「あの方はな」
「やはりそうですか」
「兄上は正しい断をされた」
「織田家に入るべきだと」
「あの方ならばな」
絶対に、というのだ。
「天下を泰平に出来る」
「だからこそ」
「ここは織田家に入り」
「そしてその中で」
「織田家の家臣として生きようぞ」
「それが我等にとってもよいですな」
「思えば兄上は色々と悪いことをしてきた」
だからこそ三悪人の一人とさえ言われてきた。宇喜多直家の悪名は斎藤道三、松永久秀と比べても遜色ない程だった。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「確かに家を守り大きくされた」
「潰れる一歩手前だった宇喜多の家を」
「そうしてくれた」
このことを言う忠家だった。
「だからな、我等はな」
「その宇喜多の家を」
「守る」
絶対にという言葉だった。
「そうしようぞ」
「さすれば」
「我等は戦い」
そして、というのだ。
「そのうえでな」
「家を守るのですな」
「織田家の中でな」
「だからこその先陣ですな」
「うむ、しかしな」
先陣として矢面に立ち戦うのもというのだ。
「この戦だけじゃ」
「毛利とのですか」
「この分ではじきに毛利との戦も終わるな」
「ですな、確かに」
秀家にもそれはわかった、織田家のこの数と勢いならばだ。
「織田家と毛利家の戦は終わります」
「織田家の勝ちでな」
「だからですな」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「必ずな」
「それでは」
「この戦は我等、特に御主のな」
「それがしの」
「その力を見せる戦じゃ」
「それがしのですな」
「御主は宇喜多の主じゃ」
家督を継いだ、それならばまさにその通りだ。
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