第2話 天狗、思い知る
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幾多の戦を潜り抜けてきた歴戦の兵だと、颯馬の頭は理解する。
「夜だったからな……昼ならもっとうまく運んだだろうが、明日まで待っていたら先に動かれていた。悪くない結果だと思うがな」
「景虎様はお甘い。それほど、この山を下りてきたばかりの出来損ないが気に入ったのですか?」
出来損ないか……確かに……否定はできない。俺は山を下りたばかりの世間知らずだ。
おまけに、無能な知恵を絞って作られた策を使った戦に付き合わされたのだ。愚痴の1つくらい出て当たり前だ。いや、出なかったら出なかったでそれもまずい。
「この策を聞き、寛兵で敵本陣を急襲する一方で、包囲を固め漏らさず打ち取るいい策だと言ったのはどこの誰だったかな?」
「弥太郎なの」
「た、確かに言ったが……この策は景虎様や私の力に頼りすぎている面もあった。一流の策とは言えないだろう?」
「確かにな。だが、私たちがいるからこそ考えた策なのだろう」
「景虎様……俺の事を買いかぶっておいでです。景虎様が不足している点を指摘し、考え直すように命じたからこそできた策です。それに、所詮は素人の策です……」
景虎様の指摘がなければこの策は思いつかなかった。それ以前に、この戦に勝利してこの場で言葉を交わすことが出来なかっただろう。
「逆に足りない所があるならそれは俺の落ち度です」
考えるべきだった。策を……より良いものにするために……。
ただ指摘されたところを助言された通りに直すだけで良い策ができる筈もない。
むしろそれだけでできたら、俺はこのような思いをすることもなかっただろう。
「やり直せるものなら、やりなおしたいものです。しかし、それは叶わないのが戦だと知りました」
「世が……怖くなったか?」
「いえ、恐ろしいものだと知りましたが、恐れずに済むようになる目的が増えました」
その場に膝を着き、頭を垂れる。これが礼儀だ。主を仰ぐ臣下の礼だ。
「どうか、このままおそばに。今後はより良い策を献じます。学び、力をつけ、必ずお役に立って見せます」
目を閉じ返事を待つ。
「……分かった」
「天城颯馬、この時より軍師見習いとして定満に預ける。我がために学び、我がために働け」
「は、ははっ!!」
「颯馬君、よろしくね? 初めてのお弟子さんで嬉しいの」
宇佐美殿が耳をヒクヒクと動かしながら微笑む。
「これからよろしく頼むよ。天城颯馬軍師見習い殿」
「山を下りたばかりだから世話が焼けるだろうな。なあ、颯馬?」
「か、景虎様……」
俺は景虎様の為に尽くすと改めて誓った。そして、もうこのような不出来な策は作らず、己の力で良策を作り、それを役立ててもらうために。
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