第2話 天狗、思い知る
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わたしにできることならいいけど……」
「俺を戦場に連れて行ってもらえませんか?」
「それじゃあ、一緒に行くの」
戦場は遠くなかった。
人々が声を上げながら、武器を手にぶつかり合っている。
命を賭けて。俺の策を信じて。
雄たけびをあげながら刃を打ち下ろす声。
槍で突かれてあげる断末魔の悲鳴。
刃を打ち鳴らす火花が、遠目にも分かった。
「あそこで、皆戦っているの……」
あの中に景虎様もいる……自ら刀を振って、命を賭けて戦場に立ち、戦っている。
戦の様子を、多くの命のやり取りを眺めつつ思う――こうなるとは思わなかった。
危険すぎる。死んでしまってはそれで終わりだ。
机の上で考えただけ、もっと考えればいくらでも気づける場所はあった。
何故気づけなかった……? そうとわかっていれば頭を捻れたはずだ。
拳を振るわせていると、あたたかいものに包まれた。
「大丈夫……景虎様は強いの……弥太郎も。それに颯馬君の策も、よく考えられた事、わたしには分かるの……だから怖がらなくてもいいの」
雷を恐れる子供をなだめるように、宇佐美殿は俺を抱きしめて、落ち着くように背中をぽんぽんと叩く。
「おわったの……景虎様の勝ちなの」
「景虎様」
戦が終わったばかりの景虎様の元へ行く。見たところ、景虎様は息1つ乱していない。戦場で倒れている兵も、長尾の鎧を纏っている者より敵対している軍の鎧を纏っている者の方が多く倒れている。
いや、多いか少ないかと言ったものではない。正に圧倒的と言った方が正しい。長尾軍の犠牲は見たところ数えれる程度だが、敵軍の犠牲は数えるのも気が遠くなりそうなほどの数が倒れている。
これが、長尾の……景虎様のお力なのか? 自らは先頭に立ち、刀を振るいながら的確な指示を与えながら敵を斬り伏せる。多忙なんて言葉では済まされないにも関わらず、息1つ乱していないどころか、「これはほんの小手調べだ」と言わんばかりの余裕の表情をしている。
「颯馬……どうしてここに?」
景虎が颯馬の姿を見つけると、急ぎ足で駆け寄ってきた。城で待っているように命令した故、この場には居る筈がない。景虎が颯馬の隣にいる定満に目を向けると同時に、定満は困ったような顔をしながら、口を開いた。
「景虎様……ごめんなさい、なの」
「城で待つように言っただろう。まあ、いい」
景虎が溜息を突きながら言う。
「見事な勝利おめでとうございます」
「うむ」
「確かに勝った。だが、包囲が甘く取り逃がしてしまった者も多い。今後また我らを脅かすとも考えられる」
背の高い女性が目を閉じて口を開く。策の穴を的確に言い、その凛とした表情も相まって反論の余地もない。彼女は長く長尾家に仕え、そして
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