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温泉旅行
温泉旅行(中編/2日目)
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兄貴……」と俯きながら呟いた。
その様子を見て自分でも可笑しくなったんじゃないかと疑問を抱くほど、普段の恋也を知っている俺にとって異様な光景だった。
俺の袖を引っ張り、俺の事を兄貴と呼ぶなんて中学生ぐらいならまだ分からなくもないが、それを実行しているのは今年で16になる現役高校生。

「どうした?お前らしくもねぇ」

しゃがみながら尋ねても答えることは無く、俺の性格が気分屋でもある為かやや怯えながら目を逸らしているあたり、何か知られたくない事でもある可能性があると捉えられる。

「恋也……俺温泉行ってくるから」
「ん……」
「手、離してくれねぇか?」
「ん……」

返事はするものの行動する気は無いようで、一体何がしたいのか全く検討もつかない。
窓の外にでも蛇がいるのかと思い目を凝らしてみても窓の外は真っ暗で、それ以外目立つものもない。

「恋也、言わねぇと分からねぇだろ……。どうしたんだ?」
「1人で風呂に入りたくない」

俺か、と突っ込みを入れてしまうほどバカらしい理由がそこにあり、思わず肩を揺らす。
昨日は入れたのになんて理由は恋也には通じないだろう。
昨日の恋也は多分、誰も寄せ付けない負のオーラが全面に出ていたのだろうから。
中学の時から時々溢れている俺と似ているものが。

「昨日は入れただろ、それとも気が張ってねぇと1人で風呂にも入れねぇのか?」

からかい半分で尋ねた言葉だった。
そのまま手を離されどこかに出て行くんだとばかり思っていたのに、恋也は俯きながら「商売相手がこの旅館に居た」なんて言われた。

俺は恋也の商売おそらくバイトだろうけどを知らないので、どんな商売をしているとも説明が出来ないが、偶然が重なる事だって僅かな可能性だが、可能性として存在する。

「そりゃぁ、居るだろ。俺の知り合いも居るかも知れねぇからな」
「そうじゃない。付けられてた……まぁ、気が付いたのは昨日りとが出て行った後だけど」
「尾行されてたのか?」

俺が尋ねると恋也はさらに顔を暗くして口を開いた。

「俺が中学2年の時からずっと俺にストーカーしてるかもな」

どこか呆れたような表情で告げた恋也の瞳には光は宿っていなくて、そんな世界に住んでいる為なのか、興味のない物を見るような目で告げた恋也に掛ける言葉を探しているより先に感情任せに口が勝手に動くのは、俺の悪い性格の1つかもしれない。

「何でんな面して言えんだ、あ?結局お前……恋也は何が言いてぇ?俺に助けでも求めてんのか?だったらお門違いだ。警察に言え」

それだけ言って俺は着替えを持って部屋を出た。
そしてそのまま温泉に向かい月を見ながらあまり良い気分ではない入浴をしていた。
ただ、自分で言った事は守ったつもり。


温泉
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