暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆自己の非同一性
第五十七話 予感
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と一言。ミドリは呆れてなんでもないと答えた。
「俺は自分がどんな存在なのか掴めず、ずっと苦しんでいた。それをシノンに相談したら、彼女は『今の俺がどんな存在なのか』だけを気にすればいいんだとアドバイスしてくれたんだ。以来、俺はシノンと行動を共にしている。戦闘の訓練とかを無償で手伝う代わりに、俺について客観的に気づいたことをレポートみたいにして書き出して貰ってるんだ」
 シノンは「ああ、そのことか」とひとり納得すると、ストレージから一枚の紙を引っ張りだした。
「これ、今週のぶん」
「おお、いつもすまないな――って今渡すのかよ。これがそのレポートだ。シノン、こいつらに見せても構わないよな」
 ミドリが一応シノンに確認を取ると、彼女は勝手にすればと言って再び料理をぱくつきだした。ミドリが渡されたそれを可視モードにしてイワンとストレアに渡すと、イワンは興味津々に、ストレアは一応見てみるかといった様子で覗き込む。
「……こんななんでもないような日常的なことが、自己定義――アイデンティティとなるんですか」
 レポートを読み終わったイワンが多少の失望感と共に尋ねると、シノンがそんなイワンに対し不満そうな視線を向けた。
「そう、そんななんでもないようなことが俺の核となる。逆に言うと、このSAOで起動――というか誕生し、簡単にいえば生後数ヶ月の俺にとって、自分を定義するようなことはこれくらいしか存在しないんだ。だからこそ、シノンのレポートは俺にとって何よりも大事なもののひとつなんだよ」
 ミドリが、夕食を食べ終わり、食後のデザートに手をつけはじめたシノンに対し感謝の視線を向けると、彼女は意味ありげに肩をすくめた。感謝しなさいよ、とでも言いたいのだろうか。
「それじゃ、ミドリさんは結局ミズキさんでもプログラムのミドリさんでもない、別の存在ということで納得しているんですね」
「そうだ。随分遠回りしたが、結局はそういう理解に落ち着いた。俺はお前の眼の前に居る俺自身に過ぎない。これは何があっても変わらない事実だ」
 ミドリは簡単に言い切ったが、この結論に至るまでに悩みぬいた日々は相当な苦しみだった。その苦しみも今は乗り越え、彼は確かに自分という存在を掴んでいた。


 しかし、それは彼が向かうべき方向、彼の戦う理由とはまた別問題だった。ストレアの表情は暗い。ミドリの話を聞き、彼女もまた自分の役割を思い出しつつあったからだ。戦いの目的とその結果の破滅的な結末が近づきつつあることに、まだミドリもストレアも気づいていなかった。

 やがて彼らはたどり着かなければならない。彼らは戦う度に、自らを一歩ずつ死の淵へと追いやっているという絶望的な事実へと。
 そして気づかなくてはならない。自分という存在が消えるのを防ぐためには、今の仲間に対し剣を向ける必要があるこ
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