第四章 誓約の水精霊
幕間 ルピナス
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男の下に向かうため歩き出し、丘の麓までいくと、そこには予想外の光景が広がっていた。それは……
「花……畑」
剣の突き刺さる赤い荒野の中、不似合いに過ぎる様々な花が咲く美しい花畑が広がっていた
「は……ぁ……」
その花畑に咲く花は、今まで見たことがないほど美しく、思わずため息が出るほどであった
「これは……一体?」
誘われるように花畑の中に入ると、咲き誇る花々から香る甘い香りに包まれた
「凄いとしか、言いようがないね」
まるで幼い少女のような笑みを、知らずの内に浮かべ、時折膝を曲げると、満開に咲く花に顔を近づけその姿と香りを楽しむ
「見たことがない花ばかりだね」
夢心地で花畑を散策していると、花畑の端に、今にも花開こうとする花を見付けた
「ん?」
誘われるように、その花の下に向かうと
「不思議な花だね?」
その花は、不思議な形をした花であった
まるで細長い山のような形をしたそれは、今まさに花開こうとしていた
「ん。こっちもか」
その奇妙な形の花の近くには、同じく今にも花開こうとする花が二つあった
「こっちにも」
また、別に蕾の状態の花が一つと、まだ芽が出たばかりのものが一つ見付けた
「ふふふ……可愛いね」
「……シロウ」
顔を上げ、丘の上にいる男を見上げる
「何で背中を向けてんだい」
見上げる男は、こんなにも美しい花畑に背を向け、視界にも入れていなかった
「……少しはこっちを向きな」
愚痴るように呟く。
風は常に男の方から吹くため、花の香りさえ、男の下に行くことはなく
「こんなにも綺麗な花畑にも気付いていないのかい?」
男がこの花畑に気付いていないだろう
「何してんだいあんた」
丘の上に立つ男は、丘の上……上を見ることはなく、下を見ることもなく……ただ、ただ前だけを見ている
「っ……馬鹿」
男の立ち姿は一見すると揺るぎなく見えるが
「……何痩せ我慢してんだい」
どうしても、それが酷く弱々しく映って見えることに、苛立たし気に呟く
「……全く……本当何してんだい」
肩を落とし、小さく溜息を吐くと、男の下へ向かうため歩き出そうとする
「馬鹿な男」
周りを見ることなく、只々前だけを見つめ、愚直に進む男
丘の上に立つ姿は確かに荘厳さを感じるほどだが……
「そんなに辛いなら、助けを呼べばいいのに」
何故か辛そうに見えた……
「座ればいいのに」
崩れ落ちそうに見えた……
「……泣けばいいのに」
今にも泣き崩れそうに見えた……
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