第四章
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「これのことか」
「そうじゃ、そのまま着けておるか」
「心眼を開いたが」
「それでもそのままでおるのか」
「うむ、心眼を開く為の修行じゃったが」
それでもとだ、十兵衛は沢庵に静かに答えた。
「着けておるうちに愛着が出て来た」
「それでじゃな」
「このまま着けておく」
「そうか、しかし御主はいつも言われておるぞ」
「隻眼であるとな」
「そうじゃ、そちらは気にしておらんか」
「ははは、そう思われるならそれでいい」
構わないとだ、十兵衛は沢庵に笑って返した。
「伊達様もそうだし山本勘助殿もそうだったではないか」
「あの御仁も隻眼だったそうじゃな」
「そうじゃ、だからな」
「隻眼と言われても構わぬか」
「全く構わぬ」
これが十兵衛の言葉だった。
「それはな」
「御主がよいのならよいがな」
沢庵も納得した、だがそのうえで十兵衛にこうも言った。
「しかしな、我儘を言っていいか」
「目を見たいか」
「うむ、眼帯を外してみてくれ」
こう十兵衛に言うのだった。
「少しの間な」
「わかった、それではな」
十兵衛も応えそうしてだった、その眼帯を外した。するとその下にあったものは。
開いた目だった、左目と同じく。十兵衛はその右目でも沢庵の顔を見つつそのうえで彼に対して答えた。
「ずっと閉じておったから辛いわ」
「見えておるか?」
「うむ、はっきりとな」
確かな笑みでだ、十兵衛は沢庵に答えた。
「和尚の怖い顔が見えておるわ」
「何処が怖いのじゃ、わしの顔が」
「鬼の様じゃぞ」
笑って言うのだった、沢庵に対して。
「地獄のな」
「そう言う御主こそ相変わらずじゃな」
「両目のわしの顔もか」
「そうじゃ、やけに彫りがあってな」
「ははは、南蛮の者の様な」
「似ておるな、髪と目の色は違うが」
「今度南蛮の剣術も見てみたいのう」
沢庵の言葉を受けてだ、こうも言った十兵衛だった。
「是非な」
「それもいいじゃろ、ではこれからもじゃな」
「こうしてな」
十兵衛はまた右目に眼帯をした、そのうえで言うのだった。
「修行をしていく」
「そうするな」
「死ぬまでな」
笑顔でこう言ってだ、また修行に入るのだった。
柳生十兵衛三厳の肖像画を見ると両目である、いかし俗には隻眼であったという。何故そう言われる様になったのかはわからない。しかしこうした理由ではなかっただろうか。そう思いこの作品をしたためた。読んで頂ければ幸いである。
十兵衛の眼 完
2014・9・27
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