第一章
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十兵衛の眼
柳生十兵衛三厳は常にその右目に眼帯をしている、その為彼は隻眼であると誰もが思っていた。しかし彼の師匠である沢庵和尚はこう言うのだった。
「さて、それはどうか」
「柳生殿は隻眼かというとですか」
「わからないのですか」
「それはどうかのう」
笑って返事をはぐらかすのだった。
「一体」
「いや、眼帯をされていますし」
「それでは隻眼でしょう」
「右目が潰れたので眼帯で隠しているのでしょう」
「そうではないのですか」
「ははは、まあ普通はそうじゃな」
やはり笑って言う沢庵だった。
「そう思うな」
「?わかりませぬな」
「どういうことですか?」
「柳生殿は隻眼というのは天下に知られたこと」
「それが違うというのですか」
「柳生殿を弟子に持ったこともある」
沢庵に諭されてそうして十兵衛が自ら弟子入りしたのだ、それだけに彼は十兵衛のことをよく知っているのだ。
その彼がだ、柳生に興味がある者達に言うのだった。
「それでよく知っているつもりじゃが」
「ですから隻眼でしょう」
「隻眼だから眼帯をされているのでしょう」
「そうではないのですか?」
「柳生殿は幼き時は両目だったといいますし」
つまり眼帯をしていなかったのだ。
「かの伊達政宗殿と同じく」
「あの方も隻眼でしょう」
「若しそうではないというのなら」
「眼帯をする意味がありませぬ」
「眼帯は確かに目を隠すもの」
このことは確かにと言う沢庵だった。
「しかしそれだけか」
「?意味がわかりませぬが」
「一体どういうことでしょうか」
「眼帯は潰れた眼を隠す為」
「それ以外にどういった役割が」
「わかる時が来るやもな」
ここでも答えをはぐらかす沢庵だった。
「御主達も」
「ううむ、どうしてもわかりませぬ」
「それがしもです」
「一体何が」
「わかりませぬ」
「ははは、それもわかる時が来るやもな」
こう言って言わないままの沢庵だった、そして当の十兵衛はというと。
やはり眼帯をしている、そうして稽古の時も普段の時も誰もが彼は隻眼だと思った、しかし彼と手合わせをした弟の柳生友矩が兄にこう言った。
「さらによくなられましたな」
「ははは、そう言ってくれるか」
「兄上の剣は登る一方です」
「その目だけで見てはおらぬからな」
十兵衛はその隻眼の顔を綻ばせて応えた、見れば彫があり逞しい顔をしている。それが総髪の髷によく似合っている。
「わしは」
「左様ですな」
「ほう、御主にはわかるか」
「はい、その剣を見れば」
友矩もまた剣豪として知られている、その彼の言葉だ。
「おおよそですが」
「流石よのう、殆ど誰も知らぬというのに」
「沢庵殿はご存知かと思
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