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鬼神
第三章

[8]前話
 叔父衛青と並んで大司馬即ち軍権を預かる最高責任者となった。まさに位人臣を極め向かうところ敵なしであった。
 だが、だ。突如としてだった。
 彼は死んだ、病に倒れたとなっている。僅か二十四歳であった。
 このことを聞いて匈奴の者達は強敵の死に喜んだ、そしてだった。
 何故彼が死んだのか、あの男以前彼の気質について言った者がこう言った。
「真実はわからないが」
「それでもか」
「若しかするとだ」
「そうだ、霍去病は病に倒れたのではなくな」
「誰かにか」
「そうされたか」
「そうかも知れないな」
 真実はわからないにしても、というのだ。
「敵が多かっただろうからな」
「その気質故にか」
「そうなったというのか」
「衛青は違う」
 叔父である彼はというのだ。
「苦労人故か腰が低く兵達にも気さくだ」
「宮廷内でもか」
「敵は少ないか」
「衛青に敵が多いとは聞いたことがない」
 いるにはいるにしてもだ。
「しかしあの男はな」
「その気質故にか」
「敵が多かったというのか」
「例え本人に悪気がなくともな」
 それでもだというのだ。
「ああした性格ではな」
「敵が多くか」
「それでか」
「事実はわからない」
 このことはどうしてもだ、彼もそのことはわかる手段がない。
「しかしだ」
「霍去病は死んだ」
「我等の最大の敵が」
「このことは確かだ、幸いなことに」
 彼等にとっては実にだ。
「いいことだ」
「全くだな、ではな」
「これから我等は楽になるな」
「あの強敵がいないだけに」
「有り難いことだ」
 匈奴の者達は彼の死を心から喜ぶのだった。
 霍去病は僅か二十四歳で死んだ、このことについてはあまりにも急なしかも若過ぎる死だったので暗殺説もある。
 既に宮廷内で皇后も擁し権勢を持っていた一族の者でありしかもその性格故に敵も多かったことが考えられる、暗殺された可能性はある。
 真相はわからない、」しかし鬼神の如き強さを誇った彼が死んだことは事実だ。どれだけ強くとも人は死ぬ時は幾ら若かろうが呆気なく死んでしまう、無常と言うべきか。


鬼神   完


                           2014・9・19
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