第六章
[8]前話
「貴殿に勝てたことを誇りとする」
「そうか」
アキレウスは彼のその言葉を受けてだった、そうして。
その場に、戦車の中で前のめりに倒れた。その彼を見てだった。
オデュッセウスはまた側近達に言った、今度の言葉は。
「トロイアは全てをな」
「全てをですか」
「そうだ、考えてあの勝負に挑んだ」
アキレウスとの一騎討ちにというのだ。
「トロイア一の弓の名手を選んでな」
「パリス殿ですね」
「あの御仁を」
「そしてだ、弓矢に猛毒を塗った」
トロイア一の弓の名手に毒の弓矢をアキレウスの踵に射らせる為にだ。
「戦車も軽く馬もだ」
「馬もですか」
「それもですか」
「素早い馬を選んだな」
オデュッセウスはそのことも見抜いていた、パリスの動きを見て。
「そうしてあらゆることを考えてだ」
「アキレウス様を倒す為に」
「その為に」
「そして挑んでだ」
そのうえでだというのだ。
「勝ったのだ、アキレウスに勝つ為にな」
「そこまでして、ですか」
「アキレウス様を倒したのですか」
「アキレウスはそのことを知ろうとしなかった」
「それはどうしてでしょうか」
「一体」
「彼が強かったからだ」
言葉は既に過去形だった。
「あまりにも強いが故にだ」
「相手がご自身のことを考えていることに」
「そして敗れることに」
「知ろうともしなかった、だからだ」
「敗れた」
「そうだというのですか」
「そうだ、慢心していたのだ」
アキレウスは、というのだ。
「それが敗北となったのだ」
「ですか、それで」
「あの方は」
「敗れた、無敵の者なぞいない」
オデュッセウスは沈痛な面持ちで語る。
「そしてだ」
「そして?」
「そしてとは」
「無敵の城もない、そして私は言った」
鋭い目での言葉だった。
「アキレウスの弔い合戦をするとな、だからだ」
「これからですか」
「アキレウスの仇討ちを」
「してみせる、アキレウス見ているのだ」
その死んだ友への言葉だった。
「ではな」
「はい、それでは」
「今から」
「木を用意しろ、あるものを作る」
オデュッセウスの目が光った、そして言うことは。
「冥界に向かうアキレウスに見せてやる、トロイアが炎に包まれる有様をな」
そのトロイアを見ての言葉だった、オデュッセウスは慢心故に敗れた友に対してこう言いそしてその智を動かすのだった。
英雄の弱点 完
2014・6・17
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