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英雄の弱点
第五章

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「それの用意をするぞ」
「アキレウス様が敗れると」
「そう仰るのですか」
「そうだ、彼は敗れる」
 絶対にというのだ。
「だからだ」
「まさかと思いますが」
「パリス殿に」
「今から起こることを見ているのだ」
 こうも言うパリスだt6た。
「彼の最期をな」
「では」
「これから」
 こうした話をしてだった、そのうえで。
 オデュッセウスは二人の一騎討ちを見守った、アキレウスは悠然とさえしている。
 その彼に対してだ、パリスはというと。
 戦車を動かしそうしてだった、悠然と進むアキレウスの戦車の後ろに回る。アキレウスは自信に満ちた顔で見ているだけだ。
 パリスはそのアキレウスの後ろに回り込みだ、そこから。
 矢を放った、必殺のそれを。
 その矢は一直線に飛びアキレウスのあの場所を射た、それが。
 アキレウスの顔を、それまで自信に満ちていたその顔を驚愕 のものにさせた。アキレウスはその顔でこう言った。
「馬鹿な・・・・・・」
「勝ったな」
「馬の動きが速い」
 まずはこのことを言うアキレウスだった。
「そしてか」
「私の弓でだ」
 トロイア一のその弓の腕でだというのだ。
「貴殿の踵を射た」
「そしてだな」
「矢には毒を塗っていた。象さえ倒すその毒をな」
「そこまでしたのだな」
「毒を使うのは卑怯だと思うか」
「ヘラクレスも使っていた」
 アキレウスはここでこの英雄の名前を出した。ヘラクレスはヒュドラーの毒で多くの試練の相手となる獣を倒してきている。
 だからだ、アキレウスも言うのだ。
「卑怯ではない」
「そう言ってくれるか」
「まさか私が敗れるとはな」
 アキレウスは死を見ている顔で言った。
「この私が」
「冥福を祈る」
 パリスはそのアキレウスに戦士の礼で応えた。
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