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英雄の弱点
第二章

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「私が人に敗れる、か」
「そんなことはですね」
「ないですね」
「絶対にない」
 有り得ないというのだ。
「そんなことはな」
「アキレウス様が人に敗れるなぞ」
「有り得ないですね」
「それこそですね」
「誰にも」
「そうだ、神ならともかくな」
 ここでもこう言うのだった。
「人に私は敗れぬ」
「絶対に」
「私を倒せる人間はいない」
 この世の何処にでもだというのだ。
「オデュッセウスはわかっていないのだ、そしてそのことをだ」
「ご自身で、ですね」
「証明されますね」
「そうだ、私は何があろうと人に敗れることはない」
 やはりこう言う、そしてだった。
 彼は戦い続けそうして勝ち続けた、誰にも傷つけられることなく。どうした武器でも毒でもだ、全くだった。
 それで戦い続ける、そしてオデュッセウス本人にも言うのだった。
「どうだ、まだ言うのか」
「君が人間に敗れるかどうかか」
「そうだ、それをまだ言うのか」
「言う」
 オデュッセウスの言葉は変わらなかった、その考えも。
「私にはそれがわかるからな」
「戯言だと思うがな」
「君自身に言うが絶対という言葉があるとすれば」
「私のことだな」
「絶対ということはないということだ」
 それが唯一の絶対だというのだ。
「だから君もだ」
「敗れるというのか」
「その考えをあらためない限りな」
「考えだと」
「これは忠告だ」
 アキレウスに対する、というのだ。
「君に対するな」
「どんな武器も呪いも毒も通じず誰よりも強い私にか」
「そうだ、君がその考えをあらためない限りだ」
 こうアキレウス本人に言う。
「君は何時か敗れる」
「断言だな」
「その通りだ、この忠告通りにならないことを祈る」
「つまり私の考えをあらためろと」
「そういうことだ」
 オデュッセウスの言葉は彼自身に対しても変わることがなかった、そうしてだった。
 今はアキレウスの前から去った、だがアキレウスはやれやれといった顔で彼の背中を見送りつつ言うのだった。
「彼は心配性なのか」
「そうですね、幾ら何でも」
「アキレウス様が人に敗れるなぞ」
「絶対に有り得ないですよ」
「例え何があろうとも」
「それだけは」
「そうだ、私は永遠に誰にも敗れない」
 やはりこう言うのだった。
「それを約束しよう」
「それではですね」
「これからも」
「勝ち続ける」
 戦い、そしてというのだ。
「人に対してな」
「そうですね、では」
「お願いしますね」
「それではな」
「私に勝てる者がいれば」
 人間で、だ。
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