第四章
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々とした感じではなく濡れたものだった。落ち着いて静かなのは同じだがそれが全く違っていた。それだけで完全に別人のものに聞こえるのだった。
「それが。どうかしたの?」
「いや、どうかもしていないよ。それじゃあね」
「ええ」
何はともあれホテルに二人で入った。ホテルの中でのデートは。彼にとっては思いも寄らないものだった。
次の日。学校で彼はまだ呆然としていた。それまではもういつも目にピンクのハートマークを浮かばせていたのが今は何か虚ろだ。まるで狐が憑いた様に。
そんな彼を見て。友人達はまた彼に問うのだった。
「で、今度はどうしたんだ?」
「デートに失敗でもしたか?」
口々に彼に問うのだった。
「だったら汚名挽回でな」
「それを言うのなら名誉挽回だよ」
「いや、最後までいけたさ」
しかし彼は答えるのだった。自分の席に座り呆然としたままで。
「それはな」
「じゃあ成功だったんだな」
「ああ」
一応はこう答える。
「成功だよ。けれど」
「けれど?何だよ」
「どうしたんだよ」
「女の子ってさ」
彼は言うのだった。
「顔は一つじゃなかったんだな」
「何かあったんだな」
皆それを聞いてすぐに察した。顔を見ただけでそれがわかった。
「それで何があったんだ?」
「言ってみな。相談に乗れることなら乗るからな」
「金のこと以外ならな」
友人としての決まり文句も出た。皆何はともあれ話を聞くつもりだった。それで彼を囲んで話を聞きにかかったのだった。意外と親切と言うべきか。
「だから。顔は一つじゃないんだな」
「顔が二つあったら怖いぞ」
「それは人間じゃねえだろ」
皆まずはこう突っ込みを入れた。半分以上冗談だ。
「いや、顔は一つだ」
「じゃあ普通だな」
「何でそんなこと言うんだよ」
「だからだよ。顔は一つじゃないんだな」
それでも恵一は言うのだった。こう。
「昼と夜とで」
「!?何が何だか」
「わからねえよ」
「人が変わるんだな」
彼は皆がわからないのを見てこう言い換えてきた。
「昼と夜じゃ」
「ひまわりみたいだな、何か」
「昼と夜で変わるなんてな」
「っていうか朝顔か?」
皆の言葉はここでもまだ冗談めいていた。今一つどころか全く話が読めていないからこうなっているという一面もあった。当然ここでもまだ冗談が入っているが。
「それだと」
「何が何だかわからないな、やっぱり」
「だから。女の子は昼と夜で変わるんだな」
恵一は今度はこう言ってきた。
「何かな」
「女の子っていうと」
「まさか彼女か」
「あの娘以外いないだろ」
恵一はあの娘と言う。彼がこう言うのは一人しかいなかった。
「弥生さんだよ」
「そうだよな、橘さんだよな」
「いや、ちょっと待て
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