第十三話 同居人
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われる身であるはずの田中が、なぜこんなに元気な声を出せるのか不思議で仕方がなかった。やはり、普通ではないのだろう。自分などとは、違うのだ。
《謙之介は結構参ってるみたいだねえ。ま、リスクをキチンと理解しているという点では好感だな。リスクの存在をそもそも知覚する事なく、俺に従った所で、それは愚かだからこそ思い切れるだけの話だ。俺への信頼を試すには、リスクをしっかり分かった上で、俺に従うかどうかを問わないとねぇ。実験の条件はますます、整ってきていると言えるだろう》
「御託を並べるのはよせよ……次は何をやれってんだ……」
《もう。謙之介はせっかちだなぁ》
田中の呆れた声と共に、画面にメモ帳のウィンドウが開いた。しかし、これまでと違い、メモ帳中に書き込まれている文章の量は比較的少なかった。スクロールせずとも、全文を確認できた。
「拓洲会の本部事務所に、お前の使者として赴けと……?」
《そう。拓洲会は名前のイメージの通りヤクザでね。多分中共の敵偵処かCIAか、どっちかに雇われて俺を追っかけてる。警察と公安が身動きとれないんでね。今度は徳洲会からの追跡が盛んになってきてるんだ、公的機関が日本赤軍への対応に追われている隙を突いて、ね》
「……今度はヤクザ相手にしろっていうのか……」
小倉は少し声が震えた。交渉の使者。今度は、コソコソ監視の目をかいくぐるような真似ではなく、相手の前に堂々と姿を現さねばならない。それだけでも、今まで二つとは違う。これまでは、バレさえしなければ、一連の事件への関与も無かった事にできただろう。今度は自分の顔もバレる。完全に、事態の当事者となってしまう。田中は着実に、要求のレベルを上げてきている。自分を、より深く巻き込もうとしている。
《ああ、そうさ。ヤクザも俺を追ってはいるけど、あいつらは金目当てで行動してるだけだから、まだ交渉の余地が十分にあると踏んだんだ。どうせ、俺が国内から逃亡を図ろうとしたら、あいつらの助けも必要になるんだし、ここらで一つ話をつけておこうと思ってね》
「それは分かったが……しかし、今度は指示が少ないな。まず、拓洲会の本部事務所なんて俺は知らんぞ?ネットで検索してすぐ出てくるようなもんでもあるまいに……」
小倉の言う通り、今度の指示はかなり少ない。それこそ、拓洲会の本部に行け、としか書いていなかった。これまでは綿密に計画が練られていたり、細工が為されていたり、とにかく田中が完璧に敷いたレールを、小倉が走るかどうか、その一歩を踏み出すかどうか、という部分が"実験"の焦点だった。しかし、今回のものは、そもそもレールが存在していなかった。
《あぁ、それはね。その程度の事なら、謙之介個人でもできるだろって踏んだからなんだ》
「はぁ?」
《謙之介なら、
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