第十三話 同居人
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赤軍の検挙に追われきりでね。本来ないことになっている事件のもみ消しになんて、走り回っていられないらしいのよ。その点、私達は誰の目を気にすることもない、幽霊達だから」
市ヶ谷の穴ぐらの一角、紅茶の香り漂うあの執務室。上戸は電話をかけていた。国内のどの電話会社の回線とも違う、彼ら"幽霊"同士の会話にしか使用されない、幽霊回線で。
《……という事は、増員も……》
「しないわよ。あなたに任せる。好きなように決着つけてちょうだい。あなた自身のやり方でね」
《わっ……私に、任せる、と……》
上戸は、妙に楽しそうだった。それとは逆に、電話の相手は言葉を詰まらせる。上戸には、受話器の向こうの彼女の、困り顔がありありと脳裏に浮かんでいた。その顔を想像すると、上戸は更に楽しくなってしまうのだった。
「ええ。とにかくね、丸く収めさない。ただそれだけよ。結果がそうなら、過程はどうしたって構わないわ」
《……そうやって、丸投げされると、かえって迷いが出てしまいます……まだ、未熟ですので……》
「迷いながら、決断していくのが人生じゃないの。とにかく、私からは具体的な指示は出す気は無いわよ。頑張ってちょうだいね」
上戸は電話を切った。デスクの上に置いていたティーカップに手を伸ばし、艶やかな唇でそっと啜る。電話中に少し冷めてしまったようだが、しかしまだ、冷たくはなっていなかった。上戸はふふん、と鼻で笑った。
(冷めてるようでいて、まだ温かさは残ってる。誰かさんみたいよね。この一件で、また熱くなるのか、それとも更に冷えていくのか、楽しみだわ)
上戸の浮かべた蠱惑的な笑みを見るものは、その部屋には居なかった。
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《やぁ!久しぶり!まだ俺は元気でやってるよ!謙之介はどう?》
「……お前みたいな奴とつるんでんのに、いつもと変わらず元気で居られる奴が居るとしたら、そいつ自身もお前みたいな犯罪者か、それとも死ぬほど鈍感かのどちらかしかない」
ため息混じりにパソコンの前に腰掛ける小倉の目元には、うっすらと隈ができていた。追われる身の田中と秘密裏に連絡をとっているという事実は、ただそれだけで神経をすり減らし、小倉の安眠を妨げていた。特にこの前の爆弾設置の件については、自分の知らないうちに何かヘマをこいていなかったか、明日にでも警察が自分の事をしょっぴきにやっては来ないか、後になって気になる事が多すぎる。サイレンの音が近くでする度に目が覚めてしまったり、警官が居る所を避けて通ったり、自分が何かしら罪を犯している自覚がある以上、それを追及される可能性は絶対に捨てきれないので、どうしても臆病になってしまう。小倉は、当の自分が追
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