コヨミフェイル
012
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気にしている風もなく月火は忍の頭の上に手をのせて撫ではじめた。
かなりの大物である。
見た目も愛らしいし、僕が安全を保証したものの、いきなり撫でるとは思わなかった。僕としても吸血鬼と言われてすぐに頭を撫でられる勇気などない。皆無である。
「かわいい。この子が本当に吸血鬼なの?」
しかし、かわいいものに目が無いようで、もがきながら嫌がる忍をひとしきり撫でた後に月火が言った。
「ふん、悪いか」
かわいいと言われたことが思いの外嬉しかったのか忍は頬を少し紅潮させながら取り繕うように不機嫌を装った。
完全体の時ならそんなありきたりな評価に気を良くすることはなかっただろうけれど、今は見た目は言うに及ばず、精神までも幼児化していて案外単純である。
「何か、妹ができたようで嬉しいー」
撫でるだけじゃ飽き足らず、月火は忍の頭に両手を回して抱き寄せた。忍は顔を押し付けさせられて息苦しそうにじたばたしている。
「で、僕は忍と出会って、吸血鬼になったんだけど、色々あって今では僕は吸血鬼に限りなく近い人間に、忍は人間に限りなく近い吸血鬼になったんだ」
ほとんどのことを省いてまるで要領を得ない説明になってしまったが、仕方ない。僕と忍が傷付き合う物語など元々誰にも明かさず、墓場まで持って行くつもりなのだ――吸血鬼もどきの僕に墓場があるという前提に成り立っているが。だからこの物語は戦場ヶ原にも伝えていない。知っているのは当事者の羽川と忍野だけ。皆は僕が吸血鬼もどきになった経緯がまったく気にならないのか、それを聞いてくる気配もない。それは妹も含まれるようだった。
「じぁあ、首筋の傷はその時のだね」
忍を抱き寄せたまま、顔だけを僕の方に向けた。
「まあな」
と答えてやると、
「…………お兄ちゃんが吸血鬼か〜」
少しの間を開けて月火は気の抜けたような返事をした――そのすぐ後だった。
「そして、私は左腕が猿だ」
唐突に神原が話に割り込んだ。驚いて神原の方に目をやった時には既に左腕を覆っていた包帯を解いていて、その包帯の下に隠されていた猿を思わせるけむくじゃらの腕が惜し気なく曝されていた。
レイニーデヴィル。雨降りの悪魔。
契約として魂を引き換えに三つの願いを叶える、いや裏の願いを。
レイニー・デヴィルは暴力的な悪魔らしく、何よりも人の悪意や敵意、怨恨や悔恨、嫉心や妬心、総じて、マイナス方面、ネガティヴな感情を好む。人の暗黒面を見抜き、惹起し、引き出し、結実させる。嫌がらせのように人の願いを聞いて、嫌がれせのように叶える。契約自体は、契約として――人の魂と引き換えに、三つの願いを叶える。三つの願いを叶え終えたときに――その人間の生命と肉体を奪ってしまう、そうだ。つまり、人間そのものが、最終的に悪魔となってしまう
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