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闇物語
コヨミフェイル
010
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 この絶句、というよりかは一時停止、は二つのことから起因していた。
 神原の服選びにしばらく帰ってこないだろうと踏んでいた月火がそこに居たことに驚いたこと。
 それと、月火が口にした言葉の意を悟って驚いたことだった。
 火憐が善人に暴力を振るうなんてことが信じられなかった。ましてや神原にだ。
 正義の味方を名乗って悪と見なしたものを次々とその手に掛けてきたファイヤーシスターズ一味だが、二人が(僕を除く)無関係な人、もしくは善人と見なしたものに危害を加えたことがあることは寡聞にして聞いたことがない。
 聞き間違えかと思った。
 しかし、ファイヤーシスターズの参謀役が口から発した言葉は確かに己が妹、ファイヤーシスターズの実戦役の名だった。
 「どういうことだよ……」
 「だけど、あれは火憐ちゃんじゃなかった。だって無表情の火憐ちゃんなんて火憐ちゃんじゃない」
 「…………無表情?」
 『無表情』というワードが引っ掛かった次の瞬間には北白蛇神社の境内での壮絶な闘争の画が脳裏を過ぎった。
 楽しげな影縫さんと黄泉蛙の子に憑かれた無表情の瑞鳥との闘争。
 このときある憶測が頭に浮かんだ。
 千石に目配せを送ると、千石は小さく頷いた。
 それで憶測が確信に変わった。
 火憐は憑かれていたのだ。あのときにはすでに火憐は黄泉蛙憑かれていたのだ。
 少し考えれば、気付けたようなことだった。
 火憐は真剣な顔をしていたわけではなく、ただ無表情だったことも、石を投げ付けられたにも拘わらず、火憐が僕に襲い掛かってこなかったことも少し考えていれば、不審に思うに違いなかったのである。
 誘拐の可能性のある失踪した思い人を捜しているさなかにそれを妨害するように飛んできた石を打ち返すだけで済ませるだろうか?
 火憐の残念な頭脳でもその石の出所を特定してその人物を捕縛して尋問なりでもしてもおかしくないだろう。
 そのことに気付かず、呑気に火憐を止める算段を立てていた自分が心底憎かった。その所為で火憐が神原をこんな目に遇わせたことに、その所為で火憐の正義を汚してしまったことに自戒の念を抱かざるを得なかった。
 「何があったのか詳しく聞かせてくれないか」
 だが、悔やんでいる場合ではない、到底ないのだ。
 火憐は今も月火を求めて走り回っているのだ。
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