コヨミフェイル
009
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れてはさしもの儂でも従わざるを得んがのう」
「いや、しない……から、そ、そんな……こと…………」
俯いてもごもごと言った。
先程まで真剣だっただけに、忍に初心であることを弄ばれることに羞恥心にかられる。恥ずかしいにもほどがある。
「初心じゃのう。別に遠慮せんでもよいのじゃぞ?」
それにもかかわらず、続ける忍ちゃんだった。
完全に面白がっている。こんな状況で面白がることができるのは、六百年という人生経験のおかげなのだろうか。
「お前様だって一時は儂の眷属じゃったろうに」
ようやく気が済んだのか、話を本筋に戻した。
「ん?……ああ」
眷属。従僕たる眷属。
吸血鬼は吸血をすることでその相手を眷属にすることができる。
もちろんそれは吸血の一つの側面で、もう一方は『食事』。栄養補給である。
己が純然たる従僕たる眷属を吸血により増やす、殖やすことは繁殖と形容しても何等差し支えないだろう。
「子を産むちゅうことはそないに珍しいことやない。眷属を造ることも分身を造ることもそうや。人間に認知される手っ取り早い手段やからや」
と、ここで黙っていた影縫さんが付け足すように言った。
確かに数が増えれば、増えるほど、人間との遭遇率は上がり、遭遇率が上がれば上がるほど、怪異譚が増える。そして、結果的に存在力を増すことに繋がる。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードならまだしも、世界を飛び回って存在を誇示するよりかは眷属を作って散らばらせる方が効率がいいのに決まっているのだ。
「ということは生命の危機に瀕した黄泉蛙が自身の生存を棄てて黄泉蛙自体の存続を優先させたということですか」
「そうやない」
「えっ」
てっきり肯定されると思っていた僕は予想と異なる答えに困惑した。
「追っ手が迫っているこの状況で普通産まへんやろ。すぐに殺されてまうのに、と思わんけ?鬼のお兄やん」
確かに、そうだ。
現に退治されている。
「うちはこれは時間稼ぎやと思う。自分が生き残るためのな」
自分の子を何の躊躇いもなく時間稼ぎのために差し出すことに怪異と生物の違いを意識させられる。子孫を残すことより自分が生き残ることで、結果的に種の繁栄に貢献できると考えての選択なのだと思うとなおさらだ。
「……時間を稼いで黄泉蛙は何をするつもりなんですか?時間を稼ぐということは何か策でもあるということですよね?」
「その通りや。妹の彼氏の家族を襲ったんは子供を生み付けて、囮を造るためやったんやろうけど、そんなんで稼げる時間なんて知れとる。また人間を襲うちゅうこともできへん。なら、何する、鬼のお兄やん?」
僕がどんな返答をするかを巣穴から獲物が顔を出すのを今か今かと待つ捕食者みたいな影縫さんの口調とは裏
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