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闇物語
コヨミフェイル
009
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 『from・羽川/subject・家に帰ってきて』
 羽川からだったのだが、一瞬それが羽川からなのかわからなかった。拝啓から始まり、草々で終わる堅い文体のメールがそこには皆目なかった。というか、本文がなかった。
 誰かが羽川を名乗って送り付けてきたのではないかと思えそうなものだが、『家に帰ってきて』だけで僕が頭に血を上らせて思考能力を失うには十二分に十分だった。
 僕は機械的に踵を返して階段を駆け降りようとしたが、
 「まあ、待ちいな」
 呼び止められた。
 「待てません」
 このときにまだ呼び止められて止まるほどの正気を保てられていたことが驚きだった。多分春休みの僕だったら影縫さんの制止を振り切っていたことだろう。僕も少しは成長したものだ。これが忍野のおかげなのかと思うと少し虫唾が走るけれど。
 「そう急ぎなってゆうてんねん。今からうちがゆうことはそれと関係あることやとおもうしな」
 「どういうことですか」
 「さっきうちが退治したんは黄泉蛙の子や」
 「………………えっ?」
 ……子?
 「黄泉蛙がおどれの身内を襲ったんは、回復のためやのおて、子を産むためやったんや。この町に来たんも子を産むための力を蓄えるためやったんや」
 くそっと、心底憎らしそうに舌打ちをして影縫さんは言った。
 黄泉蛙の子っていうことは、おたまじゃくし……か。
 ならあの黒いものはおたまじゃくしだったのか。それで影縫さんが「やはりな」と、言ったのも途中からこれに気づいたからだったからか。
 と、心の中で納得していたが、拭いきれない疑問が残ってはいた。
 怪異が繁殖することは寡聞にして知らない。
 僕にとって怪異は現象だという認識しかない。どこにでもいて特に何かない限り、障ることもなく、憑くこともなく、そこにいるだけのもの。そのようなものが生物のように種の存続を目的とする繁殖を行うなんてことはにわかに信じ難かった。
 「何を驚いておる、我があるじ様よ。儂だってしておるじゃろう」
 僕の困惑を察して忍が助け舟を出してくれたのだが、それは悪い方に作用した。勿論忍を責めているのではない。むしろ、繁殖の言葉から情交を連想する僕の幼稚さが悪いのだ。
 「繁殖って、お前、まさか、そんな」
 僕の頭には完全体ヴァージョンの忍がツインベッドの上でバスローブ一枚で婀娜っぽく手招きしている画が浮かんでいた。
 「お前様は何を想像しておるのじゃ」
 それが伝わったのか忍がぐりぐりと踵で僕の足を踏んでいた。口元にはニヤニヤとした笑みを浮かべていて満更でもなさそうだった。この推定六百歳の吸血鬼は、その年齢もあってか実は神原と比べものにならないほどに性に開放的なのだ。
 影縫さんと斧乃木ちゃんの物言わない視線が痛い。
 「お前様が強制命令権を片手に迫ら
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